天野 春果さん(株式会社川崎フロンターレ マーケティンググループ課長)
お仕事の内容を教えていただけますか。
マーケティンググループが行っているのは広報、チケッティングと集客のための企画・プロモーションです。例えば、フロンターレのチラシ・ホームページ等を作成し、フロンターレの活動を市民の皆さんに発信しています。また、チケット販売、集客プロモーション、地域でのボランティア活動等も積極的に行っています。川崎フロンターレの場合はホームタウンが「川崎市」です。具体的には、地元区民祭参加をはじめ、フロンターレカラーの青いサンタクロースによる市内病院の小児病棟訪問、市内の各種イベントへの参加など、市民と選手とのふれあいを通して地域コミュニティの活性化に貢献しています。
また、フロンターレ広報紙「Frontale Express」を市内各所・主要駅に無料配布・設置し、クラブ最新情報を広く告知しています。さらに、川崎市と一緒になり、選手をモデルに起用するなど様々な活動を行っています。このような地域とのふれあいを通して、フロンターレを身近なものとして、地域に溶け込んだ存在として認知していただくための活動を展開しています。
どのような経緯でフロンターレに就職したのですか。
縁と運という面が強いです。就職する時、日本でちょうどJリーグができた年でした。私はスポーツ関係の企業に就職したいという思いがあったので、自分自身もずっとサッカーをしていたし、就職するためにクラブチームを回って飛び込み営業をしていました。その時、たまたまサッカーマガジンという雑誌にフロンターレの求人案内が出ているのを見て企画書を持って会いに行きました。企画書の中に「ホームタウン活動」の項目(川崎のチームとしてのフロンターレを定着させること)を入れたことで、ちょうどグラブとしてフロンターレ側も「ホームタウン活動」を重要視していたところだったため、そこが認められ、フロンターレに入社することができました。
スタッフの方は、サッカー経験者が多いのですか。
私のいる営業部マーケティンググループには、サッカー未経験の人が半分います。サッカーを知らない人のほうが、むしろ考え方が柔軟です。基本的に私たちが担っている業務は裏方の仕事なので、サッカーの戦術などの知識よりも地域の人のネットワークづくりや少しでも地域の人にフロンターレのことを知っていただいて好きになってもらえるような活動を考え、行動できる人の方が重要です。ですので転職者もいます。私たちの仕事は、チケット1枚売るにも今までのやり方をただ踏襲するのではなく創意工夫が求められる仕事です。
職場では、毎日文化祭前のような感じで企画を練ったり、一つ一つ協力し合って準備をしています。試合の前には選手たちも緊張していますので、イベントで気持ちを盛り上げ、サポーターの方々にはまた応援に来たいと思ってもらえるような活動になるよう仕事をしています。
フロンターレの仕事で魅力を感じることはどのようなことですか。
人と人とのつながりができることです。この仕事をしていなければ知り合えなかった人と知り合えることです。川崎フロンターレでは、15 歳から78 歳まで400 名の方がボランティアとして登録されています。 ホームゲーム時のスタジアム運営をはじめ、フットサル大会や地域イベント補助活動などクラブをバックアップしていただいています。また、ホームゲームにおいて、MIP(最も印象に残った選手)に贈られる「あんたが大賞」の賞品を、毎試合、市内商店街、各種組合や地元企業に提供いただいています。
また、地元企業による支援試合「EXCITE MATCH」を実施しており、地域と密接な関係を保ち、街を挙げてのサポートをいただいています。さらに、ホームゲームイベントとして、市民参加型のオープニングファンファーレ、ハーフタイムショーなどを展開、さらには、地元商店街や企業の方々から提供していただいた商品が
来場者に当たる抽選会も実施などホームゲームも地域の方の協力によって運営されています。
社会人として仕事をするようになるとどうしても自分の感情を押し殺さなければならない時がたくさんあります。ですが、スポーツ観戦の場面では自分の感情を喜怒哀楽を思い切りだすことができます。そうすることで、子どもの頃には誰もが持っていた心の豊かさをまた持ち続けることができます。
また、ほかの業種よりもお客さんとの距離が近く、お客さんと一緒に試合を通じて気持ちがつながることで、お客さんと一体感を味わうことができることです。
ほかのチームに負けないフロンターレの特色は何ですか。
サポーターと選手の距離が近いことです。クラブは選手を特別扱いはせず、選手もサッカーを職業としている社会人の1人として考えています。選手とサポーターに上下関係をつくらないことでサポーターと選手との距離が近くなります。選手にはサインは絶対に書くように教育しているのですが、それも彼らの大切な仕事だからと考えているからです。
一方、試合前日などに駅でフロンターレの広報誌やチラシを配っているのですが、そこに集まるサポーターはこちらからお願いしなくてもが自主的に集まり手伝ってくれています。このようにあくまでサポーターも選手も「お願いする関係」ではなく、「一緒に行う」という姿勢を大切にしています。
また、フロンターレという会社組織について言うならば、柔軟性と行動力があることです。企画を立てたとき普通の企業では、多くの上司の許可が必要になる上、
途中で却下されることも多々ありますが、フロンターレでは企画がそのまま社長に届くから、実現しやすいです。例えば、フロンターレの選手がNEC のバスケットボールの試合に応援に行くという企画も実現しました。良い企画があればとりあえず実行することにしています。そのことで上司から「ダメだ」とは言われることはあまりありません。職場全体に上司であってもダメなものはダメだといえる環境があり、良い企画やアイデアを活かす風土があります。
地域の人に伝えたいことは何ですか。
川崎の人にフロンターレを知ってもらいたいです。そして、スポーツを通じて感情を出すことで心の豊かさが得られることを知ってもらいたいです。私たちは、フロンターレのサッカーというスポーツを通じて川崎という街の豊かさを生み出す源のひとつになればという想いで日々活動を続けています。
仕事にやりがいを感じる時はどのようなときですか。
ピッチにいる時サポーターたちの熱気と声援が渦巻いているのを感じた時、鳥肌が立つしやりがいを感じます。また仕事を通じて、さまざまな人と出会い一緒に何かを創り上げた時にやりがいを感じます。
最後に若い人へのメッセージを下さい。
何をするにも漠然とした思いのままするのではなく、意識して取組むことが大事です。また、社会にでた時コミュニケーション能力は必ず必要なので、学生時代に
遊びや自分で計画を立てて一人旅などをするのもいいと思います。そうすることで、自分をよく知ることもできますし、自分の視野を広げるのは若い時が一番です。若い時はあまり深く考え込まず、失敗しても引きづらず、いろいろ将来につながる経験をたくさん積んでいってください。
取材日:2008.8.27
取材者:石川裕也、千葉淑江