男女共同参画は日本で暮らす外国人市民にも無関係ではなく、言語や文化の違いが、ときに女性や子どもにいっそうの困難をもたらすこともあります。今回は神奈川県を主な活動場所として外国人女性を対象に支援活動を行っている団体「カラカサン~移住女性のためのエンパワメントセンター」の共同代表である山岸素子さんに、日本で暮らす外国人市民が抱えている現状や困難についてお伺いしました。
聞き手:すくらむ21 インターンシップ生
内海・関根
川崎市に暮らす外国人市民たち
外国人市民と一口に言ってもその内実はさまざまなのですが、川崎市で暮らす外国人市民の特徴のひとつはアジア系の方が多いということです。中国、韓国、フィリピンの方、さらに近年ではベトナムの方も増えています。
中国人で最も多い在留資格は「永住者」(在留期間制限のない)ですが、他にも国際結婚をした方や、留学生、働いている方など、滞在する方は幅広くいらっしゃいます。韓国・朝鮮の方については川崎市の場合は特徴的で、いわゆる在日韓国・朝鮮人の方が大きな割合を占めています。
「ニューカマー」の働きに来ている方ではなくて、戦前戦後に日本に来た方たちと、その家族・子孫という人たちです。年齢層も高齢者の方たちから子どもまで、幅が広いです。フィリピンの方たちは、永住者と、日本人配偶者として日本にいる方々が多いのですが、これは国際結婚をして移住してきたか、離婚して日本にいるという方です。最近増えているベトナムの方は新規入国者で在日年数が少なく、年齢もほとんどが20代です。留学に次いで「技能実習」という枠組みなどで、働きに来たばかりの人が多いといえます。
技能実習:調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としている。(厚生労働省HPより引用)
低賃金・限られた仕事
こうした外国人市民の方々が働き生きていくなかでは、かなり劣悪な状況下での労働を強いられるケースがあります。定住資格をもっており就労において職種が限定されない方たちも、日本語による意思疎通の難しさから、実際には低賃金の限られた仕事に従事しがちです。
日本に来て間もない、例えばフィリピン人の女性たちのなかには、日本語による日常的な会話はできても読み書きは難しいということがあります。そうすると、必然的に働く場が限られてしまうわけです。今は介護職も人手不足なので外国人も多く受け入れられていますが、仕事の引き継ぎの際には記録を残すなど、日本語が書けなければならない場面があり、やはりある程度の文字の読み書きが必要とされるので、そこがネックとなってしまっているのです。
また、製造業やサービス業の一部では、ほとんどが外国からの移住者で占めることもあり、夜間も含めてずっと工場が稼働するなかで日中から夜間までずっと働いてるという実態があります。コンビニ・スーパーなどの弁当や「ワイシャツ1枚、百数十円」といったクリーニングの低価格でのサービスも、そうした劣悪な環境での就労によって可能となっている部分も少なくないでしょう。技能実習などで働いている場合でも、実際には単純労働で働かされるなど、かなりの劣悪労働になっていることもあります。
地域における暮らしの情報伝達の壁
言葉の壁のほかにも、学校制度などの社会の仕組みは国によって違うので、日本の仕組みがよく分かっていないなかで生活するのはとても大変になってきますね。2,3年を目途に日本に来ている方と、永住など長期で来ている方とでは、生活のニーズはかなり違っています。
就労ビザなどで、ある程度短い期間を想定して日本に来ている方たちは、きちんと賃金がもらえるかなどの労働条件が大切になってきます。一方、国際結婚をした女性など、日本で長く暮らすことになった方たちにとっては、地域で暮らしていくためにさまざまな情報が必要になってきますが、文化や制度の違いから何も分からない状況の中で生活が始まります。例えば、出産すると子どもを育てていくことになるので、妊娠・出産のことや子どもの予防接種など、子育てに関する日本の情報に関して、読み書きや話すことが難しいと支援情報や仕組みが分からず、苦労することがとても多いです。
川崎市の場合は「外国人市民代表者会議」などもあり、施策への提言もなされていますし、他の地域と比べいろいろな外国人市民を対象とした施策もあります。ですが、多言語での情報を区役所に置くといった支援策ももちろんなされているのですが、本人に行き届いているかというところまで考えると課題は残っています。チラシや冊子などを作って置いておくだけではなくて、0 歳児から始まる乳幼児健診や保健所で行うサービスなどを外国人の母子が受けやすいような配慮、母子に必要な情報が手渡しされるなど、多言語化が徹底していなくても、そういったいろいろな配慮をしていくことが大切だと感じています。
外国人女性の孤立
子育てに関しても、日本には幼稚園と保育園があるとか、子育ての環境や状況、支援の状況も国により異なっています。「自分たちにとって何が必要なのか」ということを選択できるような情報、幼稚園や保育園を卒園したその先がどうなっているのかという情報がまったくない状態なんです。日本に定住するフィリピン人の女性は日本人男性との結婚が圧倒的に多く、日本人の夫が配慮のある人で、妻と一緒に子育てに参加していればよいのですが、やはりそうでない場合もあります。夫が仕事中心の家庭だと、母子は孤立し、よく分からないままどうしたらよいかと悩み、不安を抱えているという状況があります。夫が外国人女性の情報の過疎化や孤独を理解し、一緒にやっていくことがとても大切になってきます。反対に、非常にうまくいっている家庭は、保育園や幼稚園を選ぶにしても、すべての学校行事や配布物などでも、夫がしっかりとフォローして教えたり、保護者会に関しても夫婦が一緒に出席したりしていますね。
母親を肯定的に受け入れられなくなることも
また、親子間での摩擦が起こるということも多くあります。日本社会でもまだまだ外国人差別がありますので、母親が外国人だということから、子ども自身の見た目が少し違うだとか、お母さんの話す日本語が少しおかしいとか、文化的な面で違うとか、そうしたことでのいじめや差別が生じることもあります。
私が支援してきた中ですと、外国人市民の子どもたちが親が外国人であることなどを理由にいじめを受けるといった例もありました。本来ならそのようなことが理由でいじめられること自体がおかしいことなのですが、子どもは「なんで自分の母親は外国人なのだろう」と引け目を感じてしまって、親のことをなかなか肯定的に受け入れられなくなってしまうことが多々あるのです。
あるいは、これはDV などの問題につながるのですが、国際結婚の場合、移住してきた女性は言葉や仕組みなどいろいろなことが分かっていなく、男性のほうが経済力を握っているなど、もともと対等な立場ではない状態で日本に暮らしていることも多くあります。
そうした状況のなかでは圧倒的に女性が弱い立場にいますので、DVが起こりやすいのです。さらに父親のほうがとても威張っていて母親が下の立場に置かれているという状況を子どもが見ていると、子どもの母親に対する評価が下がってしまって、母親のことをより受け入れられなくなっていくということが起こります。また、中学生になるにつれて関係がさらに悪くなるということが多くの母子の間で起こっています。カラカサンで支援してきた方たちには、典型的にそういった方が多いです。外でいじめをうけてきて、家でも母親が蔑視されて暴力をうけるのを目の当たりにしているなかで、子どもが母親を誇りに思えなくなってしまい、母親の母国の文化などにも否定的になってしまうし、自己肯定感も失われていってしまうのです。
川崎市の場合は全国と比べて外国にルーツをもつ子どもがとても多く、市内でも地域による差は大きいですが、1クラスのなかに2 ~ 3 人くらいいることもあります。アジア、欧米、アフリカなど、いろいろなルーツをもつ子どもがいて多様性があると、かえっていじめは起こりにくいのかもしれません。外国人であるということをみんなでプラスに受け止められるとよいのではないかと思います。
国の文化や地域の背景による必要な支援の違い
地域のなかでコミュニティを作るか作らないか、個人個人で活動するかということには、出身国の文化、日本国内での地域によっても違いがあり、どのような支援をしていくべきかということも違ってきます。
さらに、グループを作りやすい文化背景をもつ持つ方々のコミュニティ内でも、DV のような問題になってくるとグループ内では話せない、周りの人たちを知り尽くしているからこそ暴力の問題などは扱えないという難しさがあります。そうなると、コミュニティとはまったく違うところに助けを求めなければならなくなります。コミュニティの結びつきが強すぎてしまうと、そのなかでは逆に支援を求められなくなってしまうことも出てきます。
日本国内の地域によっても、コミュニティの形成の仕方が変わってきますね。例えばフィリピン人の場合は、都市部では教会ベースのコミュニティが各地にあるほか、子どもを通じたコミュニティ、友達同士のような集まりなど、さまざまなコミュニティが形成されやすいです。
より密集している地域のほうがいろいろな形でのコミュニティができてきますが、一方で大変なのは、個々の家が離れているような地域です。東北の被災地で、被災した外国人の方の調査をした時には――そこではほとんどの外国籍の住民の方が国際結婚であったのですが――、個々の家が離れているのでグループを作って支援していくというのが難しい状況でした。それでもフィリピンの方たちなどは工夫して集まろうとして、日本語教室とかをしたりするのですが、やはり外国人が密集していない地域では難しく、孤立してしまったりしますね。
女性や子どもの困難状態への支援を
支援についても、地域によって充実度が違っています。川崎市は以前から在日韓国・朝鮮人の多い地域でしたので、全国的に見ても非常に意識をもって取り組んできていると思います。ただ、外国人女性やその子どもへの施策でいうと、やはりまだ課題は多いです。
外国人の母子が福祉の制度を利用する状況になったとき、母国語による難しい制度の説明が十分にないということです。一般の暮らしの情報だけでなく、外国人市民の方で困難な状況に置かれた人がよく使う制度に関して、もう少し詳しい、母国語でのわかりやすい情報が窓口にあり、説明の際にそういうのを提供できればよいのではないかと以前から思っています。
また、川崎市では国際交流協会に登録をしている通訳ができる人が多くおり、日本に来たばかりで言葉がまだあまり話せない人が役所を利用するときには、市はそこと連携して派遣するいうスタイルをとっています。しかし、迅速に対応できるという状態ではなく、通訳のできる友達などを連れてきてもらうといった現状になっています。特に困難な状態に置かれている人に対して、言語的な支援を充実させる必要があると思いますね。
カラカサンの場合だと、役所の窓口に行く際にスタッフが通訳として一緒に行ったり、役所や団体からのいろいろな説明も補助的に行ったりしています。あるいは、相談に関しても、母語での相談を行っています。NPO 団体はそれぞれに特長がありますが、カラカサンの場合は、暴力を受けている母子、シングルマザーの母子など、母子家庭への支援が一番の得意分野ですので、そうしたところに関するサポートをしています。経済的な支援だけではなく、本人たちがじっくりと相談をして自分で今後どのようにしていったらよいのかを決めていく際に、一緒に寄り添って考えています。また、女性の場合は暴力によって精神的にダメージを受けていたり、子どもの場合はアイデンティティが不安定になっていたりするので、そうしたことへの精神的なサポートを含めたカウンセリングや、小グループでの交流活動なども行っています。
(情報誌『すくらむ』vol.55号より掲載)