松崎キヨエさん(久末表B住宅自治会 自治会長)
松﨑キヨエさんは5年前から久末表B住宅自治会会長を務めている。現在、久末表B住宅自治会は173世帯が登録されており、登録世帯の年代は高齢者が多く、1人暮らしの高齢者も少なくないため、見回りもされているそうだ。そのおかげか、松﨑さんが会長になってから、孤独死は1件も起きていないという。
久末表B住宅自治会は役員19名から構成されており、1年に10回会議を開いている。その会議では、高津区全体の行事へのかかわり方や自治会の行事について、住民のクレームなどの解決策、回覧する内容について話し合う。松﨑さんが会長になってからは、「大事な時間を割いて会議に出席してくれている」という意識から、出席者一人ひとりに何か一言でも発言してもらうことを大切にしているそうだ。小さな問題もすぐに地域の中で共有し、住民の意見を大切にしながら解決しようとする姿勢が見える。
地域に貢献したいという思いから
松﨑さんは、「年をとったら地域に貢献すると健康になる」という話を聞いたことから、以前から地域のために働きたいと思っており、退職後、地域の交通整理ボランティアを始めた。ボランティアを続けていく中で、自治会長をやってみないかと誘われたことがきっかけで自治会長に就任することになったそうだ。現在、松﨑さんは3つの仕事を掛け持ちし、多忙な毎日を送っている。自治会長の話が出た当初、松﨑さんのご家族は今まで以上にたくさんの人たちとの関わりがあることや、会議に出席したり、住民のクレームを受け止め、解決していくのにストレスが溜まるのでは、と自治会長になることを反対されていたそうだ。しかし松﨑さんは「誰かがやらないといけないことだし、遠い昔小学校で級長を務めたことが思い出されて」と反対を押し切って治会長職に就かれたという。今では、ご家族も応援してくれているそうだ。自治会長として生き生きと働かれている松﨑さんの姿がご家族をこのような気持ちにさせたのだろう。
「住んでよかった久末表B住宅」をスローガンに
松﨑さんは、自治会長職に就任されてから「ここに住んでよかった久末表B住宅」というスローガンのもと会長職を全うされている。住みやすいまちにするためにとにかく地域をきれいにすることを徹底され、掃除には特に力を入れているそうだ。さらに、掃除などを通して地域の絆をもつことを大事にされている。それをもとに、自治会で力を入れている活動は主に3つある。まず一つ目は、毎月第一日曜日に一世帯一人は参加することを義務化し、自治会の掃除をすることである。こうすることで、自然と地域でのコミュニケーション、絆が生まれるという。さらに、松﨑さんはこの時に参加者全体の顔色を見ることを心掛けているそうだ。これで、住民の問題をいち早く察知するようにしているという。二つ目は、役員で公園のごみ拾いを週2回行うこと。三つ目は、防災訓練を年2回行うことである。防災訓練は見学だけでも良いから出席するよう呼びかけていて、参加しやすいように、第一日曜日の掃除の後に行っている。
自治体というと、男性の役員が多いイメージがあるが、最近は女性の自治会役員も増えてきているそうで、特に女性だからといって、大きく苦労したことはないそうだ。ただ、力仕事などは女性ではなかなかやりにくいので、その時は男性にお願いしていると言う。お互いの得意な分野を分担し、男女が共に協力しながら自治会を運営されている様子が伺える。
私の背中を見て
特に地域の清掃に力を入れている松崎さんだが、自分ひとりではなく地域の住民皆を巻き込んだきれいなまちづくりを目指している。そのためには、まず自分が行動する、自分が地域をきれいにする。このような思いから、たばこの吸い殻などのごみが道路に落ちていた時は積極的に拾っているそうだ。そして、自分のこのような姿を見て、他の人が少しでも協力してくれたら良いと語る。会長がやっているから、私もやろうか、そのような気持ちが生まれてほしいと言う。「私の背中を見てほしい」と松﨑さんは笑顔で話す。きれいな道路にごみやタバコの吸殻などを捨てにくくなるような心理状態を利用したいという。
このような取り組みが功を奏したのか、「松﨑さんが会長になってからきれいになったね」と言われるように。「やっぱりそういうふうに言われるとうれしいですよね」と笑顔でおっしゃった。
「あいさつ」からあたたかい地域に
「住んでよかった久末表B住宅」を実現するために、地域の清掃以外に松崎さんが大切にしていることがもう一つある。それは、「あいさつ」である。松﨑さんは誰でもあった人には声かけをしているそうだ。この時も、「私の背中を見てほしい」という思いから、松﨑さん自身が積極的にあいさつをし、それが地域の人に広がってほしいという。そして、あいさつを重ねることであたたかい地域にしていきたいと語る。さらに、今の松﨑さんの目標は「173世帯全員の名前を覚え、あいさつするときには名前で呼ぶ」ことだそうだ。誰でも名前で呼ばれるとうれしいはずだという思いから、このような目標を持っているそうだ。「住んでよかった久末表B住宅」。これを目指して松﨑さんは今日もあいさつを交わし続ける。
編集後記
インタビューをしているとき、松﨑さんは終始笑顔で、また、私たち取材者全員の目を見てお話ししてくださいました。このようなあたたかい方が自治会長ならば、自然と地域もあたたかくなっていくのではないかと感じました。私たちも、松﨑さんの背中を見て、あたたかいあいさつができるように、さらに、私たち自身も背中を見てもらえるような存在になりたいと思いました。
取材日 平成27年8月26日
取材者 松田晴英 溝口未桜 山路彩月