【日時】2013年12月14日(土)10:00~12:30
【場所】川崎市男女共同参画センター(愛称:すくらむ21)第1・2研修室
【講師】新井浩子氏(早稲田大学 非常勤講師)、上園智美氏(防災士、日本ミクニヤ株式会社)
【参加】申込30名、参加25名(うち男性7名)、保育(2名)
<第1部>女性の視点から地域の防災を考える
新井講師から、戦後日本の防災対策の歴史について簡単に触れた後、2004年のスマトラ沖地震インド洋津波をきっかけに、自然災害による被害には明確な男女差があることが明らかになり、防災や復興過程に女性の視点を入れる必要性が提起された国際的な流れについて説明があった。「災害によるダメージが男女で異なる」(=女性の方が多くのダメージを受ける)状況は日本でも同様であり、どのようなダメージを受けてしまうのかを阪神淡路大震災、中越地震、東日本大震災での実例を通して紹介した。
①災害による人的被害(女性の犠牲が男性より多い)については、阪神・淡路大震災の死亡者数を男女別にみると、男性2,713人、女性3,680人で女性が約1,000人多く亡くなった。亡くなった女性の多くは耐震耐火性の低い木造アパートに住む高齢女性であった。②避難所や復興過程で女性のニーズがくみ取られない事例としては、新潟県中越地震の避難所でプライバシーを守る仕切りの設置が却下されたり、洗濯ものを干す場所が無かったこと、女性や子育て用品の備蓄がないなどの問題が起こったことなどが挙げられた。東日本大震災の避難所では、女性特有の健康問題(膀胱炎、尿漏れ、生理不順、妊娠・出産など)が改めて明らかになった。避難所を訪問した助産師によるとこれまで尿漏れなどなかったが震災を機に症状が現れることもあり、尿漏れパッドを備えていなかったので生理用ナプキンで代用したが後でかぶれの原因にもなることを知った。専門職においても、女性視点での防災の備えと情報が必要だと改めて認識されたということも紹介された。さらに③災害時には女性の労働負担が増え、女性が復興から取り残される。阪神・淡路大震災の際は出勤した男性が多く、片づけ、家事、育児、高齢者の世話といったいわゆる嫁役割を女性が担わざるを得なかった。その結果出勤できない、行動範囲が狭められる、情報を得られない状況に女性が置かれた。当時、神戸・大阪間で約10万人が失職したがその多くは女性パートであったと言われている。また④女性に対する暴力の問題もある。阪神・淡路大震災の際はDV相談が増加し、レイプ被害の相談もあった(公式な記録はない)。また中越地震で被災した女性は、見知らぬ人の中で毎日不安を感じたと、後に避難所生活をふり返って述べている。⑤復興に向けては、女性は就業しにくく(有給の仕事は男性対象が多く、女性の仕事は無給)、女性に不利な支援制度(支援金や義援金は世帯主へ)という問題もあると話された。
女性が大きなダメージを受けてしまう背景には、日本では政策や方針決定の場に女性が少なく女性のニーズや視点が防災や復興計画に入らないことや女性の収入が低いことがあげられる。国際的な災害研究では、女性の社会的・経済的地位が高いほど女性の被害は少なくなること、実際には女性は被災者支援や復興に向けた役割を多く担っていることが明らかにされている。女性が意見や経験を言葉にすること、それを避難所運営や復興計画に入れることは、災害・復興時に女性のニーズを取り上げ、人権を保障するうえで大変重要であると述べられた。
さらに女性の視点に立った防災の推進は「減災」の重要な取り組みであることを述べた。減災とは、災害によるダメージが少ない社会・地域・暮らしをつくることで災害の被害を減らそうということ。女性が声をあげ改善に向けて動けば、災害による女性のダメージは減らせる。また災害対策・防災のポイントは「地域」である。災害時は全員が被災者であり支援者にならざるを得ないので、女性の被害が縮小するということは地域全体の被害を縮小することにつながる。最後に、女性の視点をきっかけに「それぞれの困難・ニーズ」を知ることが大切だと話された。現代は、一人暮らし・子育て中・職業の有無などライフスタイルは多様化し女性といってひとくくりにはできない。障害を持つ人、高齢者、また男性にもそれぞれの困難とニーズがある。「女性の視点に立った防災」「女性の参画」を手掛かりに、地域に住むそれぞれの被災経験+支援経験+生活者としての経験を活かしていこうと締めくくられた。
<第2部>避難所運営ワークショップ
講義
講師から、避難所とは何か、避難所に行くのはどんな人たちか、また避難所を運営するのは誰か、について説明があり、「地元を良く知るみなさんの活動は、災害時に地域を守る最も重要な活動です」と話があった。その後、東日本大震災時の避難所の状況をスライドで確認しながら、避難所での課題を把握した。
グループワーク1
災害時に避難所となる区内の小学校の縮尺図面を使い『避難所の配置を考え、ルールを作る。』というワークを行った。グループ内で全員が「進行役、書記、発表、質問」などの役割を持ち、グループ毎に「①トイレ、②着替え、③洗濯(干す場所も)、④子育て(授乳も)、⑤食事作り、⑥ペット」を割り振り検討した。
発表1
各グループで決定した配置の場所とルールのポイントを、発表した。質問役が、隣の班の発表に質問を行い、グループを超えた意見交換を行うこともできた。
グループワーク2:
参加者全員が1つの避難所を運営するメンバーとして、避難所全体としての配置を検討した。自グループが決めた配置やルールと、発表1で聞いた他グループが決めた配置の場所やルールをもとに、配置が重なった場所などを再検討した。
発表2:
再検討した配置や、避難所全体を考えたルール作りなどの結果を発表した。ここでも隣の班の発表に質問を行い、避難所全体について話し合う体験になった。また、質問したり意見を言ったりすることで相互に大いに盛り上がり、自分たちが避難所の運営者としてどう取り組んでいきたいのか、何が必要なのかを話合う機会となった。
参加者の感想
- 新井先生の具体的なお話、それもデータを用いて学術的な分析の観点からのお話、非常に理解が深まった。また第2回目とか開催して新しい情報を知りたい。上園先生のワークは、全く見ず知らずの方々と意見交換しながら考えていくことが興味深く実際の避難所を運営する上でもこのような意見交換する場になっていけるといいなと思った。
- 女性目線が大変参考になりました。中身濃く、大変良かった。年齢層が異なる方との接する機会になった。異なるよい意見もたくさんきけてよかった。
- 前後半ともに、わかりやすく、またユーモアのある講演で、とても良かったです。ワークショップも実り多かった。
- 具体的な、ルールや発想を考えたこと。女性の立場を考えることが減災だと学べた。
- 前半の具体的な話のあと、後半のワークショップは世代も異なる方々とのコミュニケーションもはかれて良かった。避難所の想定した話し合いが難しかったがより深く、考えるきっかけになった。