整理収納アドバイザーとして、3年間で延べ1200件を越える依頼を引き受けている上原久子さん。得意なことで仕事を始めようと、40代半ばで整理収納アドバイザーの資格を取得。仕事を始めてみたら、家事の負担に困っている女性がたくさんいることを実感し、自分の得意なことで人の役に立てるこの仕事に誇りを持っている。起業まではとても自然な流れだったという。今回はそんな上原さんにお話を伺った。
「名もなき家事」を手伝う
整理収納アドバイザーの仕事は、ただ利用者様のお部屋を「整頓する」だけではありません。混在したモノや不要なモノを仕分けし、家事動線にかなったモノの定位置決めをすることで、お部屋が散らかる原因を根本的に解決し、今後も散らかることのないようにする、つまりリバウンドを防ぐことをポリシーにしています。
「片づけの仕事」というと、テレビ番組で良く見る、「ゴミ屋敷」のような家を片づける重労働だと思っていませんか?私も最初は漠然とそう思っていたのですが、ほとんどがマンションなどにお住まいの30~50代の共働き夫婦で、お子さんがいる一般家庭の女性からの依頼です。そして、そのような家庭の依頼を受けて仕事をする中で、家事負担の多さに苦しめられ、困っている女性が多いことを目の当たりにしています。
最近では夫婦で家事分担している家庭も多くなりましたが、男性が担っているのは「料理、洗濯、掃除」のようなはっきりとした家事がほとんどです。それに比べ、片づけなどのいわば「名もなき家事」は分担には入っておらず、圧倒的に女性が一人で負担しているのが現実です。結婚し、子どもが生まれて家族が増え、どんどんモノが増えるなかでどうしてよいかわからず、片づけができない自分を責めてしまう女性もいます。
そのような悩みを抱えるお客様は、「一緒に作業してくれる人」を求めています。片づけの本などで勉強している方も多いですが、本の情報を自分の家に落とし込むのは難しいものです。私は、家庭環境やニーズをヒアリングしながら、お客様と一緒に作業をしていきます。お客様は何よりも早く問題を解決したいはずなので、手早く作業することを心がけています。片づけの進め方として、一般的には初回は数時間かけてヒアリングをして別の日に作業というパターンが多いのですが、私はせっかくの依頼時間を無駄にしないようすぐ作業に入り、手を動かしながらこまめにヒアリングする方法で進めています。そしてリバウンドせず、お客様が簡単に継続できる、使いやすい収納を考えて部屋を片づけます。
お客様からは、「探し物がなくなり、家族それぞれが自分のものを管理することができるようになった」という感想をいただきます。これができると、家族にモノの場所を聞かれなくなり、女性たちは家事の途中に手を止めて自分が動かずに済みます。また、片づけていく過程をご家族にも見てもらうことで、家族全員の片づけに対する意識を上げることができます。このように「名もなき家事」である片づけを手伝うことで、女性の家事負担を減らすことにつながっていると感じます。
「得意」なことを一生の仕事に
整理収納アドバイザーとして起業するまでは、事務の仕事をしていました。40代半ばに十数年続いた結婚生活を終了し単身になったこともあり、「年齢に関係なく働けるように、手に職をつけられる仕事をしたい」という思いが強くなりました。「今の自分に何ができるか」を考え始め、まず主婦の経験があること、そして家事が得意であること、そのなかでも特に片づけが得意なことから、2017年7月に整理収納アドバイザー1級の資格を取得し、すぐに家事代行サービスの会社に登録しました。
当初は、平日はフルで事務の仕事、土日祝日は整理収納アドバイザーの仕事とダブルワークの状態でした。整理収納アドバイザーの仕事を始めた直後から、土日祝日に休みなく依頼が入り驚きました。平日にお仕事の方は土日祝日に依頼するのです。当然自分の休みはほとんどない状態でしたが、まず経験を積むことが大切だと考えました。
整理収納アドバイザーの仕事は講師として片づけ講座を開いて人に教える例も多いですが、現場経験を積んでいないと人にアドバイスはできないと考えたからです。
5か月後、メインだった事務の仕事の出勤日数を減らし、平日も整理収納アドバイザーの仕事を始めました。すると、平日も同じように依頼が入るのです。やはり共働きで、平日がお休みの方や、育休中の方からの依頼でした。次々に依頼が入るということは、それだけ片づけで困っている女性が多いということです。この仕事は人の役に立つ、やりがいのある仕事だと実感しました。
そして事務の仕事を辞め、整理収納アドバイザーの仕事に専念することを決意し、2018年4月に個人事業主としてアルチザンワークスを設立しました。「アルチザン」とはフランス語で「職人」という意味です。現場(お客様の家)で作業し結果を出す、片づけの職人でありたいという思いで名付けました。
片づけは、自分や家族にとって本当に必要なものを知る好機
現在は整理収納アドバイザーとして働き始めて4年目になり、月に20〜30件の依頼を受け、さまざまな片づけのお困りごとを持つお客様のために仕事をしています。
以前、私は引っ越しを控えたお客様に「家全体のモノを半分くらいに減らしましょう」と伝えたことがあります。最初はお客様も驚いていましたが、3~4か月かけて一緒に作業をし、半分近くまでモノを減らすことができたことで、大変スムーズに引っ越しをすることができました。その時のお客様からの「自分や家族にとって何が本当に必要なのかわかった。価値感が変わった。」という言葉はとても印象的でした。単なる片づけであっても、人の思考や固定概念を覆すことのできるやりがいのある仕事だと強く感じた瞬間でした。
また、このような経験から、リフォームや転居の前に収納計画のアドバイスをすることが大切だとも感じました。そのような仕事を柔軟に受けるため、今後は個人で直接お客様とやりとりする方向にシフトしたいと考えています。ちょうど今月、LINEの公式アカウントを立ち上げました。まずはこれまでに依頼をしてくださったリピーターの方たちに登録していただき、より幅広い依頼に応えていきたいと思っています。
好きよりも得意を仕事に
自分が得意なことを仕事として活かしていくといいと思います。
私は片づけが「好き」だという気持ちよりも、「得意」だという気持ちのほうが大きいです。
「好き」だと自分の思いが強すぎて「お客様の家を自分好みのスタイルで整えたい」となりそうですが、私は「得意」なので「お客様が使いやすく、便利なように」という考えで仕事ができます。「得意」であるからこそ、これだけ仕事に取り組めるのだと思います。
今までの人生経験をその仕事で活かすこともポイントだと思います。
20代のころのアパレルの仕事はクローゼットの整理や部屋のディスプレイに、事務の仕事は書類やOA機器周りの整理に、主婦の経験はキッチンの片づけや家事効率を上げる収納方法に役立っています。家族関係に関しても、私も妻としての経験があるからこそ、ご自宅に伺っているうちに夫婦の関係性や問題が見えてくることもあり、それを踏まえて片づけのアドバイスをすることもあります。
来るもの拒まずで、与えられた機会はチャンスととらえて受け入れるようにすることも大切だと思います。それによってより多くの経験と実績を積むことができるからこそ、仕事に説得力や自信が生まれ、お客様にもプロとして信頼してもらいやすくなると実感しています。
編集後記
お話をお聞きして、片づけは単に家をきれいにするだけでなく、家族関係の改善や女性の家事負担を減らすことができるということを知りました。また、顧客のプライベートの空間に入っていく上で、コミュニケーションを通じて信頼関係を築いていくというのは、上原さんならではの経験やスキルを活かしてこその方法だと感じました。現在就職活動を控えている私たちにとって、Wワーク、副業、得意なことを仕事にすることなど、働く上での新しいアイディアが得られました。本日は本当にありがとうございました。
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