『当事者は嘘をつく』
発行:2022年1月
著者:小松原織香
出版社:筑摩書房
発行:2022年1月
著者:小松原織香
出版社:筑摩書房
まっ白な表紙には赤字で『当事者は嘘をつく』というタイトルが、まっ赤な帯には黒字で「私の話を信じてほしい」と書かれている。タイトルも装丁も強烈な印象だ。性暴力被害を受けた著者は、「自分の経験を語れば語るほど、ドーナツの穴のようにぽっかりと開いた、『語りえない過去』が浮かび上がる」と述べている。そして、「性暴力被害を受けたという記憶は、自分の人生の根幹に関わる」からこそ、著者は自分の記憶が噓なのか、ほんとうなのかを徹底的に考え抜き、「語りえない過去」を語ろうとする。公開シンポジウムの壇上で言葉につまる被害者の横で、当事者の代弁をしたり冷静に解説したりする支援者に対しては、激しい怒りを向ける。「私(たち)は見せ物ではない」という叫びが読むものの心に突き刺さる。「血が沸騰するような怒りで爆発寸前」だったという著者の姿が目に浮かぶ。著者は、自助グループの活動に参加して生き延びるための「回復の物語」を手に入れた。著者が獲得した新しい語りの型は、性暴力の被害を生き延びようとする人にとって役に立つに違いない。著者自身は、サバイバーのその後に関心を寄せ続け、哲学研究者としての道を歩んでいる。