戸沼 智貴(ともたか)さん(NPO法人高津総合型スポーツクラブ SELF)
NPO法人高津総合型スポーツクラブSELFの創立のきっかけを教えてください。
「地域の遊び場」をコンセプトに、年齢問わず皆がここに来て楽しめるような、スポーツを通したコミュニティづくりをしたいと思ったのがきっかけです。
というのも、子どもの遊び場である公園ではボールの使用が禁止されているところが多かったり、ご年配の方の身近な健康づくり・仲間づくりの場所も少ないと感じたからです。
現在の活動内容を教えてください。
小中学校の施設を利用して運営し、年齢問わず地域の方々が利用できるスポーツクラブです。
日本ではスポーツは「大変」というイメージがありますが、本来スポーツの語源には「気晴らし」という意味があり、私たちは本来のスポーツの意味に立ち返って活動しています。また、SELFの頭文字である「Sports Enjoy Life Friendly」の精神で、楽しくスポーツができるようなプログラムをたくさん開講しています。スポーツでは、野球、キッズ☆チャンバラ、ピラティス、フラダンス、走り方教室などがあります。文化的プログラムでは英会話、茶道、囲碁などです。
講師の方、ボランティアの方を見つけるのは大変ではありませんか?
私たちの活動の場合、プログラムが決定してから講師の方を探すのではないのです。
それはどういうことかというと、例えば、交流の場でフラダンスのプログラムの参加者の方と話していると、
参加者の方 「実はピラティスを教える資格を持っているんですよ~。」
SELFスタッフ 「え!では、ピラティスのプログラムの講師をお願いできませんか?」
参加者の方 「いいですよ。」
…というふうに講座が決まることがあります。もともと地域の地盤があるからこそできることだと思います。まさに人と人とのつながりと運ですね。
私自身も、映像や舞台等での殺陣師としての仕事を通して会長の甥と交友関係があり、そこでSELFという活動を知りました。その時「面白そうだな」と感じて、殺陣剣術教室の講師として来たのがはじまりです。そして今ではSELF事務局内で企画広報の仕事にも携わっています。
現在の利用者数を教えてください。
これまで6年間で、延べ3000人以上、実動で1300~1400人程です。毎日たくさんの方々が利用しています。ここまで利用者の方が増えた理由として、まず考えられるのは口コミです。
そのほかに、利用者を増やす工夫として実施しているのは、会報を近隣の小中学校8校(高津中・東高津中・西高津中・高津小・東高津小・久本小・坂戸小・梶ヶ谷小)に、全校生徒分である約6000枚を毎月配布しています。この工夫により、会員の約6~7割が小中学生となっています。
スポーツに親しんでもらうために工夫していることはなんですか。
例えば、少年スポーツチームなどではレギュラー、補欠というふうに決まっていますが、SELFでは皆がレギュラーとして参加できるようにしています。スポーツで楽しく遊んでもらうために、固定チームは作らず、その日来た人全員でチームを作っています。
子どもと高齢者の方が関わることで良い点はありますか。
子どもがいけないことをした時には、高齢者の方は愛情を持ってわが子のように叱りますし、子どもは高齢者の方が困っていたら、荷物を持ってあげるなど思いやりの気持ちを自然と持って行動するようになります。このような様子を見ていると、地域の温かみを感じます。
高津中学校にSELFが入ることによって、在校生にも良いことはありますか。
多様な世代の方々が関わることによって、風通しがよくなるのは確実です。
例えば、生徒が授業を受けている昼間にも空き教室でプログラムをやることがあります。プログラム参加者の大人の方が廊下を通ると、ふざけていた学生もおとなしくなって「こんにちは」と挨拶しています。
あとSELFは夜9時(取材当時は節電で午後8時半)まで開講しているので、不審者が夜間に学校に忍び込むことがなくなり、防犯活動にもなっています。
将来どのような事業を展開していきたいですか。
スポーツではブレイクダンスの講座を始めるべく企画準備中です。
文化的なプログラムとしては英会話や囲碁がありますが、演劇など文化的なプログラムを増やしていきたいです。
この仕事のやりがいは何ですか。
子どもたちの笑顔が何よりです。そのために一生懸命やっているようなものです。「ありがとう」と言ってもらえると嬉しいです。
最後に、これから社会に出る若者にアドバイスをいただけますか。
私は以前バイク事故で生死の境を彷徨いました。事故直後、意識が朦朧とする中、たまたま近くにいた方がすぐに駆け寄り、強く手を握りながら「大丈夫だぞ!」と声をかけ続けてくれたのです。その時に助けていただいた方々のおかげで今の自分があるのだと実感しています。
私がAさんに「ありがとう」と言い、AさんがBさんに「ありがとう」と言い、BさんがCさんに「ありがとう」と言い、めぐりめぐって自分のところに「ありがとう」が戻ってくる。要するに「ありがとう」の循環でこの社会はなりたっているのではないかと思います。仕事にも同じことが言えるのではないでしょうか。
私は、私が生きている恩返しとして、『誰かのために』働くことが仕事だと思っています。
取材者:佐藤紗妃、中川知昭
取材日:2011年8月23日