金井 裕子 氏(三菱ふそうトラック・バス株式会社 人事・総務本部 RSC人事マネージメント部 人事キー・アカウントD 部長)
金井さんは現在、人事・総務本部でHR(ヒューマンリソース)コンプライアンス業務に携わっています。管理職2年目、現在6歳になるお子さんを育てながら役職を務めています。両立は精神的にも大変だったそうですが両親の協力や時短や在宅勤務制度等を利用しています。時間内の仕事効率、部下への計画的な仕事配分を意識することで、時間単位の成果を高める働き方ができるようになったといいます。金井さんは役職の機会を与えて下さった組織や上司への礼儀として、子どもを理由に仕事を断ることはしたくないといいます。どのような仕事も引き受けていくことで成長し、次の仕事につながると考え、積極的に仕事をするようにしているとのこと。スタッフの頃から与えられたチャンスを前向きに捉え仕事を楽しんでほしいと伝えています。
(H26年1月インタビュー)
現在、どのような仕事をしていますか。
私は現在、人事・総務本部に所属しています。2011年1月、HRコンプライアンス部が人事・総務本部につくられたタイミングで異動し、2013年7月から管理職になりました。仕事は2つにわけられます。1つ目は、社内におけるHR(ヒューマンリソース)コンプライアンス(HR内におけるプロセスチェック・監査などの指摘項目に関する改善)に関する理解促進及び不正防止のための研修、2つ目は、不正の調査と懲戒処分に至るまでの業務です。弊社はトラック・バス、産業エンジンなどの開発、設計、製造、売買、輸出入、その他取引業を行う会社ですので、全国各地に販売拠点があります。それらを対象に調査を行いますが、不正防止プログラムや調査手法は、本社ダイムラー社が独自に設定している基準ですので、その本拠地であるドイツと英語でやり取りをしています。その部署のマネージャーとして、部下の業務を把握しながらそれぞれに必要な工期を見据え計画的に業務を進めています。
今の仕事に就いた経緯を教えてください。
大学時代はドイツ語を専攻しており、それを活かした仕事に就きたいと思っていました。転職の際、ドイツ商工会議所に履歴書を公開し、そこでお声かけていただき弊社に入社することができました。
入社後のキャリアについて教えていただけますか。
31歳の時、中途採用で入社しました。それまでは、道路をつくる機械を製造するドイツ系中小企業に勤務していましたが、社内結婚を機に転職活動をしました。前職もトラックと関連ある業種ですので、職種のイメージはおおよそ見当がつきました。入社後は広報部門に配属され、ドイツ人の上司の秘書をしていました。その方の異動に伴い、当時の海外販売本部、そして人事・総務本部に異動しました。
2011年より始めた中期経営ビジョンである「FUSO 2015」の活動の中に、社員紹介販売というプロジェクトがありまして、そのプロジェクトリーダーを担当しました。1か月ほどの短い期間で成果をあげる必要があったのですが、他部署と連携して実際の営業利益につなげることができました。また、私の知らなかった仕事を知る機会にもなりました。直接関係のない仕事を任せていただき、どのような仕事でも引き受けていくことで成長し、次の仕事につながるという実感も持っています。無駄な仕事などありません。どの仕事にも意味はあるので積極的に仕事をするようにしています。
管理職になる過程で仕事に対する受け止めや心境はどのように変化しましたか。
6歳になる子どもがいるため「子どもがいるのに時短や定時で働く私が役職を務めて大丈夫なのだろうか」と考えました。周りに迷惑をかけるのではないか、と。その際、ドイツ人の上司に「時間が問題ではない。アウトプットさえ出せば大丈夫だから。」と励まされ、バックアップ体制がある、理解があるのだと感じ、やってみようと前向きに引き受けました。私の場合、現在9時~18時で勤務しています。管理職ですが、火・水は17時にあがらせていただき、月間の勤務時間数の合計を勤務日数で割ると毎日定時あがりとなる勤務体系になっています。遠方出張も日帰りにしていただいています。そのかわり仕事の成果をきちんと出すため、時間内の仕事効率、部下への仕事配分を計画的かつこだわりをもって行っています。
産後は、子どもの発熱等でいつ呼ばれるか分からないため、常に効率よく計画的に仕事をし、時間あたりの成果を高める働き方ができるようになったと感じています。
ワーク・ライフ・バランスについて、仕事以外のプライベートは
どのように過ごしていますか。
子育てについては、毎朝分刻みで支度をし、時間に余裕のない生活です。朝から子どもに「早くして」と100回くらい言っているようなイメージです。通勤電車で反省をしますが、その時は必死で保育園に送迎しています。幸いにも子どもは楽しそうに保育園に通っています。
その分、休日は思い切り子どもと過ごすようにしています。自分の両親が自宅近くに住んでいるため協力してもらい、なんとかお迎えや病児保育に対応しています。悩みがあれば夫に話しています。同僚や友人で同じような境遇の方に話を聞いてもらうこともありますね。
社内の風土、仕事と子育てをめぐる状況について教えていただけますか。
社会の要請もありますが、ダイムラー社の方針も、現在の弊社の状況も、性別・国籍等を問わず、よい人材が働き続けられるよう、ダイバーシティを進め、従業員満足度の高い組織づくりをめざしています。前述の「FUSO2015」の柱の中で実現しようとしている取組みが、子育て期の女性の活躍できる環境づくりにもつながっていると思います。
復帰直後は精神的にも結構大変でした。今は育児休業も最長3年取得できますが、私の頃は1年半で、かつ保育園の入所のタイミングもあり、10か月で復帰しました。そのため最初は10時~16時の時短勤務で復帰しました。仕事と家庭、子育ての両立を手探りのなか始め、この先どうなるのかと不安に思っていました。
昨年8月から、弊社の在宅勤務制度を月1回程度利用しています。通勤に片道1時間半かかるため、会社にいるように在宅で働くことができるのは、本当にありがたいことです。在宅勤務を利用する場合は、計画を立て上司の許可を得たうえで利用し、その成果を後日上司に報告することとなっています。今の仕事が在宅でも十分対応可能なことも功を奏し、電話会議やメールも利用しながら、会社さながらに働くことができます。子どもが急に発熱し看護休暇だけでは対応しきれないような場合でも、他の社員に迷惑をかけることなく仕事ができ、精神面とともにかなりの負担軽減になっています。
業種特性から、女性が活躍しやすい環境でしょうか。
ダイムラー社の子会社ということもあり、女性の管理職もここ2、3年増えつつあります。人事評価についても男女の分け隔てないと思います。特に年に一度の業績評価会議では、直属の上司だけでなく部門全体の管理職が全社員の評価を決めるのですが、嗜好性などが主観評価にならない良さがあり、信頼できます。
時短や在宅勤務等も制度さえあればよいということではなく、運用しやすいものとなっていくことが大事ではないかと思います。弊社では、女性の活躍という名称では取組んでいませんが、「FUSO2015」の5本柱のひとつに「業界で最も働き甲斐があり、誇りが持てる会社」を掲げ、一人ひとりの社員の満足度、働き甲斐を高める取組みをしています。今回新たに一つのプロジェクトのイニシアチブリーダーとしてお声かけをいただいており、メンバーに声をかけ、男女問わずさまざまな部門の方に参加していただいています。現在、先進的に取り組む事業所を訪問したり、検討材料となる事柄を集めたりしています。本稼働すると決まれば社内でメンバーを公募し、プロジェクトを組んで実施することになろうかと思います。
男性が多い職場ということもあり、これまでにも、意見を聴くため、女性の社員を部下に持つ男性管理職向けに座談会を開いたこともあります。業種としては人事等管理部門に女性が多く、製造、開発、そして営業販売部門は男性が多い傾向がありますので、性別問わず公平に仕事をし、成果を出し、それを判断した結果、女性が活躍しているような環境が自然になればいいなと思います。ダイムラー社のグループ会社として、女性たちが活躍しやすい環境も、少しずつではありますが、整ってきたということはあるように思います。
今の職務において大切にしていることがあれば教えてください。
「子どもがいるからできません」とは言わないようにしています。それを理由に仕事を断りたくないですし、現在のポジションにしていただいた会社、上司に対して失礼にあたります。それが管理職としての礼儀だとも思います。また、時短勤務等の制度を利用する際、利用する側としてのマナーはあるかなとも思っています。
なぜこの仕事を続けてこられたのでしょうか。
パートナーは仕事に対して理解があります。働き続けることを当然のこととして考えてくれています。私自身も、女性が結婚、出産を機に仕事を辞めるという発想がありません。中学生の時、英語弁論大会に出たのですが、その時のタイトルは「I want to be a career woman(キャリアウーマンになりたい)」でした。結婚し専業主婦になった母を疑問に思っていましたし、自分はそうならないと決めていました。目標となる女性は、その時々でいますが、緒方貞子さんのように、途中ブランクがあっても、60代を過ぎてなお活躍し続けられる方は尊敬します。自分もめざすべく、仕事を続けながら経験や能力を磨いていきたいと考えています。
今後、手がけていきたい仕事はどのようなものですか。
昨年の10月より、コンプライアンスの研修を各販売拠点で行っておりますが、社員の方々の意識も変わりつつあると感じております。これまで業務ミス等で処理されてきたことが、コンプライアンス上報告すべき事項であるとの認識が浸透し、前年と比べ不正報告件数の増加につながっています。不正案件の報告が増えることは問題ではないかと思われるかもしれませんが、不正に対する気づき、報告の必要があるケースをレクチャーした成果であると前向きに捉えています。今後は、組織の透明性をさらに高めていけるよう支援していきたいと思っています。また、人事に縁あってこの仕事をしていますので、採用にプラスになる、よりよい人材の確保につながる、透明性の高い開かれた組織づくりに貢献していきたいと思います。
次に続く女性たちへメッセージをお願いします。
実力が評価される会社です。スタッフの時からチャンスも与えられるし、プロジェクトなどにも参加しようと思えば参加できます。実力で勝負できるので、子どもがいても私のように管理職になるチャンスもあります。ぜひ前向きに仕事を楽しんでほしいです。また、同じ子育て期の女性や自分より下の世代の女性たちもサポートしていきたいと思っています。