柴田 千晶 氏(三田調温工業㈱管理部総務・経理担当)
柴田さんは入社14年目、空調関連の設備に係る企業で総務・経理を担当しています。建築業界は男性が多く、他の企業の女性社員に出会う機会も極めて少ない中でも「女性が一人しかいない」といったこだわりよりも自分自身の興味関心に従い仕事を進めてきました。働きながら2人の子どもを出産し、育休中も在宅で仕事を続け、復帰後は時短で働きました。一人目の出産で、家事、育児、仕事を完璧にしない“いい意味での手抜き”を覚えたといいます。管理する立場となり、社員間のコミュニケーションだけでなく、経営者と社員の間の意見調整、若手の成長を意識した仕事の采配など、バランス感覚を要する業務も増えたといいます。大切な役割や責任を組織の一員として担うことに喜びを見出せるかどうかは管理職就任を決める要素であり、組織で働く以上責任の負担感を理由に打診を拒否するのはやはり違うのではないかといいます。
(H25年11月インタビュー)
現在、どのような仕事をしていますか。
弊社は空調及び温湿度制御関係の設計・施工空調の設置工事やメンテナンスを主な業務としており、私はその中で総務、経理、労務管理全般を担当しています。経理は社員給与の支払業務が中心ですが、業務見積もりの確認や納入・支出について現場とやりとりをしたり、社長や専務と資金繰りを考えたり、私自身も入札に参加することもあります。また、社員の勤怠管理以外にも、社員とのコミュニケーションを図りながら現場の様子を把握するようにしています。月1回ある社内会議にも参加していますが、そのいい機会です。現場の要望や意向をくみ取り社長へ伝えたりもしています。最近の業務では、平成6年制定の就業規則の改定を行いました。今の社員の労働環境に応じたものをつくろうとセミナーに参加し独学で素案をつくり、専門家に相談し修正をかけました。休業制度を新たに明文化し、2013年5月に運用開始となりました。改定する過程では社員との意見調整が難しい局面もありました。
現在の仕事に就いた経緯を教えてください。
大手私鉄会社で営業・総務(経理)を9年間経験しました。その間、司書になりたくて勤めながら大学の文学部(夜間)に通い始めました。職場もスクーリングなどの社員の自己研鑽に寛容でした。その後退職し、一年半大学に通って図書館司書の資格を取りました。司書として働きたかったのですが、公務員試験は年齢的に難しく、その他の図書館も採用枠が少なく断念しました。その後1999年に弊社に入社しました。前職で最後に経理関連の業務をしていたので、今の仕事に就く要素になったようにも思います。前職は業務がシステマティックで、関連会社とのつながりやおつきあい、お客様対応などの基礎を学びました。そのことが今も活きているように思います。
入社後のキャリアについて教えていただけますか。
入社して14年目になります。唯一の女性社員です。入社当初は経理業務を中心に担当する方向でしたが、次第に労務管理や組織全体に関わる業務にも携わるようになりました。
この職場で2人の子どもを出産しました。それぞれに産休や育児休暇を取得しましたが、1人目のときは復帰しようとしたところ保育園に入れず、育児休業(1年)を1年3カ月に延長してもらいました。休業中は自宅にインターネットバンキングを引き経理業務をしていました。また、月2~3回書類などを取りに職場に行っていました。入社前は社長のお連れ合い様がこの仕事を担当していたので、育休期間中だけ仕事に復帰していただきました。
復帰後は、子どもを保育園に預けながら時短勤務(9:00~16:00)で働きましたね。2日かけてしていた作業を1日でこなしたり、早めに出勤したりしていました。時に自宅に持ち帰ったこともありました。切羽詰まると意外と威力を発揮できるのだなと思ったものです。とにかく一人で仕事を抱え込まないように、共有フォルダに必要なデータを残したり、ファイリングしたものにインデックスをつけて分かるようにしたりしました。パートの方と連携し、不在時でも誰でも対応できるよう工夫していました。それでも終わらない時は、子どもを寝かしつけてからこなしていましたね。2人目を出産した時もそのようなかたちで仕事を続けました。
スキルアップはどのように図ってこられたのでしょうか。
そうですね、研修にはよく参加しています。建設業界専門の経理研修や県主催の研修、メーカー主催の勉強会などにもすすんで参加しています。そうすると業務の全体像が見えてくるので。建設業界は男性が多く、他の企業の女性社員にはほとんど出会ったことがないのですが、「女性が一人しかいない」といったこだわりよりも自分自身の興味関心にしたがって仕事を進めてきたように思います。
仕事における転機等があれば教えてください。
1人目の子どもが生まれた時が自分自身にとっての転機でしたね。自分の思うようにいかないこともあることを知りました。当時、環境の変化に追いつけず、家事も育児も仕事も完璧にこなすことができなくてジレンマに陥りました。しかしある時、完璧にすると家族にも職場にも迷惑がかかることに気がついたんですね。それ以降無理はしないと思うようになりました。いい意味で合理的に手を抜くことを覚えたのは、同じく育児休暇中だった大学時代の友人との語らいにおいてでした。手を抜くという話でいえば、パートナーが理解を示してくれたことも大きいように思います。家事や子育てに対して完璧主義的なところを「頑張らなくていい」「無理しなくていい」と言われることで、ずいぶん気が楽になりました。いつもきれいでいたい、出来合いを食べさせたくないといった考えを捨て去ることができるようになりました。
組織において中核を担ようになり、仕事に対する受け止めや心境は
どのように変化しましたか。
社長や専務、そして社員の間に立ち、意見を伝える役割を担っています。まずは私に些細なことでも話してくれることが社員にとってはワンクッションとなり、小さな会社で和気あいあいとした社風が維持されるならば、社員の皆さんにはどんどん私を活用していただきたいと思っています。また、仕事を割り振る時は、若手とベテランを組み合わせることで若手に仕事を学ぶ機会を提供するなどの目的ももって采配する場合もあります。
このように、経営者と社員の間で中立的な立場に在ることの方が難しく感じます。これまでの社会経験の中でも、両者の意見や思いを一度に併せ持つことは大変なことで、バランス感覚も必要です。双方がうまくいくよう落とし所をつけるために私情を挟んではなりませんし、時に冷酷にならざるを得ないこともあります。そのような局面が想像以上に多い点が、辛いところでもありますので、心身のバランスを図るよう心がけています。
大切な役割、責任を担いながら組織の一部となって動くことを嬉しいと感じられるかどうか。それは大切な要素だと思います。責任を負いたくないという理由で管理職の打診を拒否するのは、上司の指示を受け組織で働き、その対価として給料をいただく立場からするとやはり違うのかなと思います。時間がかかってもいいので資格等を取り、キャリアを積み、自身の興味関心を大切に仕事をする。そうして管理職になっていってほしいと思います。
なぜこの仕事を続けてこられたのでしょうか。
働かされているのではなく自分の意志で働いているから続いているのだと思います。義務でなく使命感をもち、いい意味で“楽しむ”ことを心がけながら、勤めているような気もします。仕事に不満がない人などいませんし、それぞれに紆余曲折もあると思いますが、そのような中にありながらも自己中心的にならず、何事も楽しみ、おかしいと思うことは払しょくしながら仕事を進めています。
また、子育て中は、働きながら家事や子育てを担うとなると、アフターファイブを持つことなどできません。家に帰れば別の仕事が待っている。ある意味「個」として存在できる会社は一番自分らしくいられる場所なんですよね。子育て期の女性にとっての会社は、自分らしくいられる場所なのだと思います。だから私も今働き続けているのかもしれません。
働くうえで参考にした女性などはいらっしゃいますか。
前職の女性の先輩でしょうか。5人いましたが、みなとても生き生きと働いていました。結婚し、出産し、職場に復帰する姿を行動で示してくれたことは大きかったと思います。また、学生時代からの友人との付き合いもヒントになりました。しがらみや立場などを考えずとも、学生時代の友人は、損得なしに叱咤激励し、時に相談し合い、いつでも正直に真っ向から意見を交わせる貴重な存在でもあります。
今の職務において大切にしていることがあれば教えてください。
与えられたことを拒まないことが仕事を楽しくすることのコツだと思います。好奇心をくすぐられるようなことを命じられるとワクワクします。いやだと思ったらそこで終わってしまうと思います。あとは、何においても“人”とのつながり、ですね。どんなに文化や取り巻く環境が発達しても、人との関係を断ってしまったら何もできないと思います。
社内の風土、業種特性から、女性が活躍しやすい環境でしょうか。
残念ながらこの建築業界はまだまだ男性の多い社会ですが、たとえば国家資格を取得して助言をしたり、図面を描いたり、女性の活躍できる機会は開かれていると思います。今後は女性のパワーも求められていくと思いますので、どんどん社会に出ていく必要があると感じています。
関連して、男性社員の子育てへの参加については、弊社は相当理解があると思います。実際に子育て中の男性社員もいて、子どもの急な発熱などで休暇申請をする場合もあります。仕事が滞りなく進めることができるのであれば、勤務時間の融通を利かせることもあります。社長は社員の家族を準社員のように思って下さっており、そのような皆あって組織が成り立つとの認識が、働きやすさを生んでいるように思います。また、社員数が少なく、社員の家族のことも互いに知っていたりすることも、いざという時にあたたかく見守りあうきっかけになっているように思います。
ワーク・ライフ・バランスについて、仕事以外のプライベートはどのように
過ごしていますか。
仕事以外では、読書や映画鑑賞や観劇、家族や友人と季節に応じてお花見や潮干狩り、海、スキーなどにも行きます。また、無心になって掃除や料理、お菓子作りなどに没頭することもしばしです。
今後、ご自身が手がけていきたい仕事はどのようなものですか。
そうですね、さまざまな業務に広く関わってきたように思うので、今後は一つひとつの業務をより深めていきたいと思っています。事業拡大するよりは小さくても確かな仕事をして実績を上げていきたいと他の社員とも常々話しています。
次に続く女性たちへメッセージをお願いします。
“なぜ?どうして?”と常に疑問を持ち、自ら周囲の方々にそれらを投げかけ問えるだけの感性を研ぎ澄まし、考えを抱き続けることができれば素晴らしいと思います。受け身になってしまうと人は向上しなくなると感じます。仕事や趣味など、何事に対しても興味関心のアンテナをはっていれば得るものも大きいと思いますので、可能な限りプラス思考で、そして笑顔を忘れずに、チャレンジしながら前に進んでほしいと思います。