生田目 早苗 氏(東京ガス㈱川崎支店 副支店長)
生田目さんは現在、川崎市内を対象に、企業の社会貢献活動(CSR)を展開する業務の管理者をしています。理系技術者として入社し、女性初の法人営業部に配属となり、以後20年間営業職に従事してきました。入社当初は結婚、出産、育児をしながら働き続けることができるか不安でしたが、技術者として活躍する機会を与えられ、取り組むことで、やりがいや責任感が芽生えたといいます。そして育児休業を活用しながら周囲の協力を得て3人の子どもを育ててきました。管理職になってからは、ひとつの目標にむかってチームをまとめ、ことを成し遂げる醍醐味を知ったそうです。両立などに不安を抱くのは自然なことですが、悩むことで目の前のチャンスを逃さないようにしてほしいと生田目さんはいいます。自信は働き続けることで自然と身につくものであり、達成感が仕事を捨てがたいものにする、そうすれば子育ても両立したいと思うようになるものだから、これだけはしてきたと言える仕事の得意分野を築き、なくてはならない存在になってほしいと考えています。
(H25年10月インタビュー)
現在、どのような仕事をしていますか。
川崎市内を対象に企業の社会貢献活動(CSR)を展開しています。弊社はガスの検針やガス機器の販売業務などのお客様に直接応対する窓口業務は関連会社に委託しているため、支店では地域への防災や環境に関する取組などを展開しています。具体的には、料理教室を通じて学校教育を支援したり、地域のお祭りや防災フェアがあるときには職員が出向いたりして出展します。また、警察や消防の方とともに地域防災に関する会議も開いたりします。弊社の地域における顔として活動することが業務の中心となります。さまざまな部署で経験を積んだ、業務全般に精通する40代以上のベテラン社員とともに支店活動を展開しています。
入社後のキャリアについて教えていただけますか。
大学の理系学部を卒業し、技術職として入社しました。均等法施行後3年目で、それまで女性が一人も配属されたことのない法人営業部に女性技術者として初めて配属されました。その後、20年ほど法人営業部に在籍し、ホテルや病院などを対象に、電気と熱を同時発生させる熱電併給システム「コージェネレーション」営業に従事していました。入社3年目に結婚し、4年目に1人目の子どもを出産し、1年間の育児休業取得を経て復職しました。初めて管理職になったのは2002年です。その後、2009年に家庭用商品開発部に異動し、家庭用の新商品の企画・開発を行うプロジェクトリーダーとなりました。以上のように、家庭用分野から業務用分野までの幅広い業務経験から、2013年4月に川崎支店で取りまとめの一端を担う副支店長として配属されました。家庭用分野から業務用分野までの幅広い業務経験を活かして、支店として地域のお客様の様々なニーズに応える対応が望まれて、のことだと思います。
キャリアを通じてスキルアップを図ってこられたのですね。
転機などがあれば教えて下さい。
入社当初は、将来に対するキャリアビジョンも漠然としていたように思います。また、当時は結婚や子育てで仕事を辞める女性が多かったので、続けられるか不安もありました。しかし法人営業に携わり、技術者の視点をもって資料を作成しお客様の前でプレゼンする機会を上司が作って下さるなかで、失敗しながらも機会を重ねるうちに仕事に対する責任が芽生えました。こうして時間をかけて育つ人材が辞めていってしまうことに対する問題意識も培われていったように思います。
転機は、ある都市のホテルにコージェネレーション設備を導入する仕事を手がけた時でしょうか。利用者だけでなくホテル自身にとっても利益があると提案し続け、施行から引き渡しまで3,4年かかりました。終盤に近づき、仕事に対する責任感も芽生え、ようやく一人前になれたなと感じました。導入してよかったとの声も頂戴し、具体的な達成感もありました。
管理職になってから、仕事に対する受け止めはどのように変化しましたか。
育児休職を経て、初めて管理職になったとき、同期の方たちはすでに管理職になっていたため、自分もやっとこのような責任ある立場になったのだと思いました。
また、家庭用商品開発部のプロジェクトリーダーを経験した際、ひとつの目標に向かってチームをまとめ、ことを成し遂げる醍醐味を知りました。それまでは管理職は大変な仕事だと思っていましたが、現場と関わったり組織をチームとしてマネジメントしたりする楽しさなど、キャリアには段階ごとに異なる楽しさがあるのだと気がつきました。
仕事をするうえで大切にしていること、心がけていることがあれば教えて下さい。
おおよその方向性を共有しながら自分が責任をとりつつ進めていくことについては子育ての経験が多少役立っているかもしれませんが、基本的には、性別関係なくリーダーシップを発揮したり明確なビジョンを提示したりといった本来管理職として求められる能力を発揮すればいいのではないかと思っています。管理職としての仕事がきちんと行えているかどうかを常に意識し、自分のやり易いやり方に逃げ込まないようにしています。部下に対しては、物事をはっきりかつ正確に伝えるようにしています。また、親密さに距離をおいて客観的に評価するように気を付けています。部下の能力は、その人が強みを活かせ、かつ適切な方法で仕事が行われることで発揮されるもののように思います。ある分野の仕事を、前任者と同じ方法でしているからうまく回らないといったこともあるので、持ち味が発揮される方法を一緒に考えるようにしています。
ワーク・ライフ・バランスについて、仕事以外のプライベートはどのように
過ごしていますか。
比較的物事にのめり込むタイプなので、一度仕事に入ると熱中してしまうんですね。社員としてこれくらいはしなければと思う自分のイメージにむけて一生懸命になってしまうので、時間を上手にマネジメントしバランスをはかることができる方はすごいなと思います。
子育てについては、育休取得後半年から1年で復帰しました。休み過ぎると仕事の勘も鈍り、勉強し直す必要が出てくるので早めに復帰しました。保育園を利用し、時折母に手伝ってもらいながら夫と協力して貫きました。子どもが喘息になり、季節の変わり目になると入院することが多く、その時期は一番大変でした。喘息が始まると心配で夜も眠れず、その一方で翌日仕事を休むために仕事を誰に頼もうか、資料の説明はしていただろうかと考える自分がいて、子どものことを心配しきれない自分自身に罪悪感を抱き、職場と子ども両方に申し訳ないと感じていたことを覚えています。また、仕事が忙しく徹夜続きのときに限って子どもはよく熱を出しました。「仕事を休みなさい」と自分の代わりに熱を出しているのだと思うようになりました。このような経験から、部下の子どもが病気の時は「子どもが休みなさいと言っているんだよ」と、仕事を休むよう伝えています。
今の仕事を続けてこられた理由はどこにあるとお考えですか。
入社3年目に結婚し、その後子どもができました。当時の女性は、結婚・出産で辞める人が多く「本当に自分は仕事しながら子育てできるのか」と不安でした。しかし、ちょうどその時に「育児休業法」が施行され、東京ガスもいち早くこの制度を導入したことから両立を決めました。その後育児休業を3回取得し、仕事を続けることができました。辞めて専業主婦になっても相応の充実は得られたと思いますが、私は、組織で仕事をすることが好きなのだと思います。組織の一員として多くの方と関わりながら、まわりに信頼したりお願いしたりしながら働くプロセスが好きなんですね。働く環境も充実していて、そのなかで行う仕事も充実し、成果が得られることが、私自身にとって一番大きな満足なのだと思います。
業種特性から、女性の活躍しやすい環境でしょうか。
会社全体としては出産して復帰し、キャリアアップしていく女性が増えた感じがします。職場に戻ることができる、活躍できると感じられる雰囲気が醸成されつつあるのだと思います。
子どもが小学生になるまでは家にいて子育てしたいと、しっかり3年取得する方もいれば、小学校に上がるまで育児時間を利用する方もいます。その間、仕事が制限され昇格が遅れることを選択することも尊重されるべきだと思いますし、産休が明けて間をおかずに仕事を続けたい人は半年だけ育休を取得する選択があってもいいのだと思います。いずれにせよ選択肢が多い方がニーズを叶えることができるのではないかと思います。
また、復帰後に遠慮なく仕事を頼める人もいれば、バランスを考えて家庭へ多くのウェイトをかけるようになる人もいます。さまざまなタイプがあるので、職員の希望を聞きながらワーク・ライフ・バランスに配慮するようになってきていると思います。また「子どもが風邪を引いた一日お休みします」と言える雰囲気や、子どものことで仕事を早く切り上げたりすることが段々と浸透してきているようにも思います。
その他にも、人事部で数年に一度女性ワーキングプロジェクトが開催しており、その時々で要望に応える体制も整備されています。また、10年後の社員像に照らして当面の異動先を上司と語り合うキャリア面接もあり、キャリアを考えるいい機会となっています。上司も可能な限り希望を聞いてくれます。
今の仕事に就いた経緯を教えてください。
一つは、東京ガスはエネルギーインフラという基盤事業なので、社会の幅広い分野でお客様と関わることのでき、長くひとつの会社に勤めていてもいろいろな仕事を経験できると思ったからです。実際、個人のお宅や、大きな病院・ホテル、工場など様々なお客様と一緒に仕事ができました。
二つ目の理由は、制度面でも社風の面でも女性が総合職として長く働ける環境が整っていたことです。この点は入社後も拡充され、大変ありがたかったです。
今後手がけていきたい仕事はどのようなものですか。
さまざまな部署を経験してきて、それぞれに積み残したことにもう一度関わりたいという思いはありますが、新しい仕事にもチャレンジしたいと思っています。予想していなかった部署に異動しても、これまでの経験が役立つと思いますので、さまざまなことを経験しながらお客様との接点を持っていきたいと思います。
次に続く女性たちへメッセージをお願いします。
大学時代は社会に出ることに漠然とした不安感を抱くのが自然なことだと思います。仕事に対するプロ意識や責任感などは、働き出すことで芽生えてくるものです。仕事と家庭を両立したいという気持ちも同じ。ですので「出産、育児と仕事を両立してやっていけるのだろうか」と悩んでいるよりも、まずは目の前にあるチャンスを逃さないようにしてほしいです。仕事を続けていくと、自然と「自分ならやっていける」という自信がついてきます。仕事が捨てがたいものとなり、子育ても両立したいと思うようになるものです。だからまずは仕事を頑張ってほしいと思います。子どもはできたときに考えればよいと思います。
また「どんなことをしてきたのか」と聞かれたときに、してきたことを自信を持って言えるようになることも大事だと思います。私は技術者として入社しましたが、最初めから技術を持っていたわけではなく働きながらスキルを身につけていきました。「あなたが抜けてしまうと困る」と言われる存在になるべく、コアとなるキャリアを確立できるといいですね。なかにはキャリアアップにつながるかわからない異動などもありますが、組織になくてはならない存在になればモチベーションも維持できます。育休を取得して「早く帰ってきてほしい」と言われればモチベーションも高まります。社内外で通じる得意分野と言えるようなものを築いてほしいと思います。