佐藤亜紀子さん(日本理化学工業株式会社)
障がい者雇用の徹底
日本理化学工業株式会社は「ダストレスチョーク」や「キットパス」など環境にやさしく人にも優しい製品を数多く世に発信している。さらに、障がい者雇用を強く推進しており、現在では従業員全体の約7割が障がい者の方である。
障がい者雇用促進法では一定の企業に対し雇用する労働者の2.0%に相当する障がい者雇用を義務づけている。だが実雇用率は1.68%となっており、まだまだ課題はありそうだ。その現状を理解したうえでみる日本理化学工業会社の70%という数字にはだれもが圧倒されるだろう。
なぜ、ここまで障がい者雇用を徹底しているのか。決して最初からこだわっていたわけではなく、どのように指導すれば良いのかわからないとの理由から当初は何度か断ったこともあるそうだ。しかし、近くの特別支援学校の先生に実習だけでもいいから経験させてほしいと頼まれ、中等部の女子生徒2人を受け入れた。そこで学生の一生懸命な姿を見て採用を決めたのが、障がい者雇用を徹底するようになったきっかけだという。
関わることの大切さ
高校卒業後すぐに就職を考えた佐藤さん。学生時代は働くことは生活のためにという思いが強かったが、秋田県から上京しセラミックや計測器を扱う企業で11年総務の担当者として働く中で人との出会いや会社の楽しさを知ることができた。しかし、一つの企業に勤めるだけではなくいろいろな世界を見たいと思った佐藤さんは転職を考えた。以前の企業で得た総務の知識を使う仕事に就くか、それとも福祉の仕事に就くか悩んだ末、日本理化学工業株式会社で働くことを選んだ。現在はサブマネージャーとして経理の入力や社外からの見学の対応、そして働く人たちの体調管理をしている。障がい者の方が成長していく姿を見ると、仕事のやりがいや楽しさを感じられると佐藤さんは言う。
佐藤さんご自身も以前は障がい者の方と接する機会はあまりなく、現在の会社に入社してから深く関わるようになった。最初は理解することができない部分も多くあり、避けたいと思うこともあったそうだ。しかし共に働く仲間として関わっていく中で障がい者の方の仕事に対する一生懸命な姿、集中力が素晴らしく即戦力となっていることに改めて気付くことができた。またサブマネージャーとして社会からの見学の案内をすることで、普段は障がい者の方に関わることの少ない人にも、障がい者の方の良い所をたくさん見て帰ってほしいと思っている。
そして佐藤さんは障がい者の方と関わっていく中で、「障がい」について何も知らないのに可哀そうと同情するだけの社会に違和感を覚えるようになり、今は「障がい」について理解のある多様で柔軟な社会になっていってほしいというのが佐藤さんの願いである。
誰もがフェアな環境で働きやすい環境
日本理化学工業株式会社では「皆働社会」の実現を目指している。皆働社会とは、みんなで働き役に立てる社会を創っていくことである。「人のために動き、人の役に立つことを働くという。人のために動いていると幸せになることができる。一生懸命働きなさい」と大山泰弘会長は社員に伝えている。そこから日本理化学工業株式会社は一人一人が一生懸命働くことのできる環境づくりを目指して社員全員で5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)に安全(safety)を加えた6Sを重視して仕事に取り組むなど様々な工夫をしている。また、グループで目標を立て生産性をあげる際には作業しているみんなで考え、決めることで、具体性が出て実現させることができるという。さらに時計が読めない場合には砂時計を使用してみたり、色を活用して天秤を工夫したりする。文だけではなく写真や絵を添えることでわかりやすくするなど、障がいに左右されることなく誰もが働くことができるように工夫されている。
これらの工夫をするためには一人一人の個性や特徴などを把握しておく必要がある。また理解の仕方や伝わり方も様々である。だからこそ言葉だけの一方的な指導をするだけではなく、相手の反応や表情を見ながら伝えることも必要である。指導の仕方も一つではなく個々に対応できるものを考えていくことも、運営を管理している側にとって大切なことであるそうだ。フェアな環境でそうした丁寧な対応によって誰もが働きやすい環境を築き上げられていると感じた。
編集後記
私たち大学生は本当に小さな世界の中で生活している気がする。3年生にもなると「就活しなきゃ」、「いい企業に入りたい」、「安定したい」という話をよく耳にする。そして就活をして入社して定年まで働くというビジョンしか持てていないのが現実である。佐藤さんが言っていたように、長年同じ職場で働くこともいいことだが1つの仕事にとらわれることのない自由な考え方も今の私たちのような若者には必要なのかもしれない。就職難といわれている時代を楽しむぐらいの冒険心やいろいろなことに挑戦していく強さと好奇心を持たなければならないと思った。
そして一番考えなくてはならないのはこれからの社会の在り方である。私たちはある一定の考えに固執してしまってはいないか、一人一人が自分に問いかけてみてほしい。
2014年8月25日 加藤有紗、大原千隼、渡辺康平