岩武志さん(株式会社日の出製作所)
日の出製作所は、今年で設立54年目の町工場であり、機械部品の加工・組立を行っている。岩さんは現在、日の出製作所の専務取締役として、会社の魅力を発信しつつ、若手の人材育成にも力を入れて取り組んでいる。アイデアひとつでいろいろなことができるのが中小企業の良さであると岩さんは語る。知恵とアイデアで新しいことに挑戦する岩さんと、入社5年目にしてグループリーダーとして活躍をされている室井さんに働き方についてお話を聞いた。
険しい道のりが報われたとき
会社を知ってもらう取り組みとして、岩さんは初めに新聞社への売り込みを行った。特に新商品の無いような中小製造企業は新聞に取り上げられる機会が極めて少ないという。しかし今までの中小製造業には無かったような、女性が働きやすいなどの日の出製作所ならではの取り組みを示すことで、新聞に取り上げられるようになったという。最近では頻繁に新聞に載るようになり社員があまり驚かなくなったとのことだが、岩さんは問いかけるそうだ。「自分の同期で新聞に載った人は何人いる?」と。
岩さんは教員になりたい気持ちと社長である父に対する少しの反発心もあって大学に進んだ。しかし、「自分は何になりたいか?」ともう一度考えたときに「新しいことをやれる立場になりたい」「自分で決断し、後悔をしない生き方をしたい」という考えに至った。そこで「自分で決断できる、後悔しなくてよい立場で仕事をしたい」という思いから社長である父に「働かせてくれ」と頼んだそうだ。入社するときに父に言われたそうだ。「この会社をこのままやっていく必要はない。新しいことをやっていけ。そのために日の出を大きくしていけ」と。
世の中は「中小製造業は2流」と中小企業を良い目では見ない現状がある。しかし、中小であってもどこでも負けない一流の社員であってほしい」という思いで、入社後の3か月の研修は非常に厳しいという。しかし、その研修を社員が無事乗り越えてくれた時には、自分の気持ちが伝わったのだと、岩さんは嬉しく感じるという。
日の出製作所は平成21年から「ロボットコンテスト」に出場をしている。ロボコン事業をする中で、70歳くらいの職人の方から「まさかこの日の出でロボコンに出られるとは思わなかった」と言われた時には、請負先から受注されたものをただ作るだけであった日の出製作所が変わったなと感じたそうだ。
アイデアひとつで挑戦できる~女性が働きやすい職場へ~
元々、黒を想像させるような匠や職人といった男の職場で女子トイレも設置してなかったが、リーマンショック以降女性が入ったことにより、女性のほうが指導したことへの呑み込みが早いということに気付き、会社の戦力にしようと女性が働きやすい職場作りを始めた。しかし中小製造業に女性は就職したいと思わない。そこで広報活動の一環として女子ロッカーを広くしたり、女子専用休憩室を作ったり、冷暖房完備など従来の町工場のイメージを変えるような様々なことを試みた。また女性社員自らが作業着を明るい物へとデザインすることで工場内が明るい雰囲気へと変わったと岩さんは語る。
川崎から、もの作りの魅力を発信したい!!
もの作りを知らなかった女性社員たちが研修を経て自分たちが感じたこと、自分たちが生み出したものを多くの人に伝え、知ってもらいたい。そのような気持ちでリーダーの室井さん筆頭に女性社員たちのアイデアを集め、アルミ材で出来た可愛らしいロボットのストラップ「ROBOROBO」を作り上げ、女性が開発に貢献した商品は、神奈川なでしこブランドに認定された。
室井さんは大卒の新入社員など若手をまとめられる能力に長けていることから、入社4年目からグループリーダーを任されている。リーダーとして年上の技術者の方へ指示したり、業務を計画的に進めてもらう必要があるため。任された当初は、自分に何が出来るかと悩んだ時期もあったそうだ。しかし、「自分ができないと人の上には立てない」と考えから、スキルアップに努め海外事業の一環として中国に足を運び、ゴルフパターの販売の営業にも力を入れている。また物づくりの魅力を伝えるために、子ども向けの体験学習などの際には準備や材料調達など再び一から上司や先輩に教えてもらうそうだ。そんな室井さんは、「ROBOROBOを通じ物作りの楽しさを子どもたちに伝えなければならない」と熱く語っていた。
編集後記
女性にとって中小製造業は今まで偏ったイメージがあったが、アイデアと知恵でそれを覆す努力をしていることを伺うことができました。また、若手社員をまとめられる敏腕さには憧憬の念抱かずにいられませんでした。この取材を通じ、男女関係なく働くということの尊さを改めて感じました。