山口一美さん(公益社団法人 川崎市歯科医師会 副会長)
山口さんが副会長を勤める川崎歯科医師会は大正3年に設立、平成25年から公益社団法人となり、平成31年には100周年を迎える。歴史を持つ組織の中で、どのようにキャリアを形成し、仕事をされてきたのか伺った。
歯科医師会に所属しているからこそできる仕事がある
山口さんは歯科医師の両親を持ち、漠然といずれ自分も歯科医師の道に進むのだろうと思っていた。歯科医師になるための学校を出た後、一旦は企業就職も考えたが、1970年代はまだ男尊女卑社会であり、女性は外で働くことよりも結婚することが当たり前とされていた時代だった。学校を卒業した時点で24歳になっていたこともあり、就職活動は難航した。山口さんはそのまま歯医者になることを改めて決意し、平成4年に歯科医師会に所属。歯科医師会には当時の世相とは異なり男性だから、女性だからといった空気は無く、3年後には早くも歯科医師会の一翼を担う役割となっていたそうだ。そのまま自然と推される形で平成21年には理事に就任した。
現在は開業医との兼務になるが、後進の育成や、児童虐待の早期発見につながるオレンジリボン運動など、歯科医師会を切りまわしているからこそできる運動に精力的に取り組んでいる。
仕事と介護の両立
一方、プライベートでは現在、介護とも向きあっている。午前中に歯科医師会の会議に出席、午後介護を行い、そのまま自身の医院に出勤というスケジュールも珍しくない。正直なところ、毎日が精一杯だと本音を語って頂けた。ただ、その多忙な中で軸となるものは、やはり仕事だという。このスケジュール自体、歯科医師という職業だから可能なものだともいえる。山口さんは現在、歯科衛生士の育成に特に力を入れているが、それもライフステージの変化に伴う柔軟な働き方を女性に実践して欲しいという理由が大きい。
女性活躍推進の取り組み 女性部の創設
山口さん自身の例でもそうであるように、ワーク・ライフ・バランスを実現するためには組織の仕組みづくりも重要である。歯科医師の行っている女性活躍推進の取り組みのなかに、「女性部」がある。女性部は、歯科医師会の中の女性たちの交流を通し、仕事やプライベートの問題点を共有することが出来る場である。休職している衛生士は自分が休んでいる間に制度、薬品や職場が、大きく変わってしまっているのではないか、ついていけるのだろうかと不安になってしまう人も多いが、そういった復職に自信がない人を支える支援場所にもなっている。また、副次的ではあるが、男性側からの介護、育児問題の認知に繋がる機会にもなったという。今後は、セミナー等を開き女性活躍推進を進めていきたいと考えているそうだ。
ワーク・ライフ・バランスを実現できる働き方
地方の『過疎地』と呼ばれるところだとまだまだ歯科衛生士は足りておらず、健康格差は地域包括の今後の課題となっている。歯科衛生士にしかできない仕事であり、誇りをもって臨めるというだけでなく、同時に、自分の生活に合わせて復職し仕事を続けていくことができる職でもある。持続性のあるキャリア形成のためにも、歯科衛生士という選択肢を一考してみてほしい。
編集後記
比率にも表れているが、山口さんのお話をお聞きする中でも、まだまだ女性が進出できていない社会であり、育児や介護等で、一度職場を離れてしまった女性は復職に距離を置いてしまうということも知った。人手不足になってしまう今後、職場復帰の窓口となる女性部のような存在がこれから必要になっていくと思う。
取材日 平成27年8月30日
取材者:村上杏菜 荒井伶奈