小林 美和さん(株式会社ソートプランナー 代表取締役)
JR南武線武蔵中原駅前にある、ワインダイニングのお店 “Karin Karin”(カリンカリン)を経営する株式会社ソートプランナー代表取締役の小林さん。ソムリエの資格を持ち、現在は、武蔵中原のお店以外にも銀座にもう1 店舗を構えています。以前は技術開発関連事業に携わっていたという異色な経歴をもった小林さんは、ワインが充実したお店を持ちたいという夢を実現し、移り変わりが激しい飲食業界において、いろいろと困難な状況に直面しながらも、10年間、飲食事業を続けてきています。小林さんに起業の経緯、どのように事業を継続されてきたのかを伺いました。
常に新しいことを学び、取り入れる
メニューやチラシも自分で
社員やアルバイトはお店の運営が主な仕事ですので、経理や労務、お店の広告チラシ、メニューのデザインなど、お店の運営以外のあらゆることを私が担っています。チラシの作成などは、当初は知り合いに仕事の合間にやってもらうということで安くやってもらっていたのですが、メニューはちょくちょく変わりますし、外注するとどうしてもコストもかかり時間もかかるので自分で勉強したんです。デザイン用のソフトも自分で購入して、本を買って(笑)。
また、どうしても人が関わっているところには小さな問題から大きな問題まで色んなことが出てきますので、お店を円滑に運営するためには、それらの問題をどうするかということも必要になってきます。実際のところ、人が急に休んでしまったり辞めてしまうことなどもあるので、その辺りが一番苦労するところですね。各店舗ギリギリの人数でやっていますので、シェフが入院してしまったときなど、何かあったときには私が厨房に入ります。シェフは 20 年以上の経験があるベテランなので、私が厨房に入るときは料理数をかなり絞って工夫してですが。
この Karin Karinというお店は、ワインバーというイメージが強く、お料理にも自信あるのですが、二次会でのご利用も多く、また周りのお店も増え、価格の相場もだんだん安くなっていくので、現状維持をするだけではなかなか難しいところがあります。ですので、常に、おもしろそうなイベントを開催したり、いろいろと勉強して新しいことを取り入れるようにしています。Karin Karin は今年の8月に3週間ほど休業して店内改装および業態も変えて、ワインと鉄板焼きのお店にリニューアルすることを決めました。
そして、いま私自身は、ソムリエにはもうひとランク上のシニアソムリエ *1という資格があり、10年飲食業を経験していないと取れないのですが、今年やっと試験を受ける資格がそろったので、勉強をしてシニアソムリエ の試験を受けようと思っています。
知識を深めるためにも、今はせいぜい 1 年に 1 回くらい、長いときでも 10 日間くらいですが、フランス、イタリア、スペインなどのワイナリーめぐりを非常に過密なスケジュールで行くこともあります。旅行も好きなのですが、やはり仕事と絡めて、お店の価値を高めるために行っています。どんなにかっこいいことを言ったとしても、現地にも行ったこともなければ信用されないでしょうし、色々な国の食に触れることで刺激を受けられます。
*1 シニアソムリエ
一般社団法人日本ソムリエ協会の認定資格で、ソムリエ資格認定後、3年目を迎える方。そしてワインおよびアルコール飲料を提供する飲食サービス業を通算10年以上経験し、現在も従事していることなどが受験資格となっています。
起業・経営の勉強をして飲食業に
経営に興味をもったのは、ベンチャー企業に就職したのがきっかけでした。技術開発の会社だったのですが、最後の半年は無給でした。モノはいいから、いつかうまくいくはずだと。結局、仕事の契約はうまく行かず解散となったのですが、そのとき、何もできなかった自分がいて、その後、起業・経営を学べるところに通って勉強しながらフリーランスで企業との委託契約で技術開発関連の企画、営業をしていました。
当時は日々の生活をするだけでパツパツ(笑)。でも希望を持って努力していたら、以前一緒に仕事をしていた技術者の方に声をかけられ、一緒に会社を立ち上げてほしいと会社の代表に就いたんです。私自身は技術者だったわけではないので、そのあたりは資料をみたり教えてもらったりしながら、技術開発以外の事務や営業を担っていました。
立ち上げた当時はまだ、35 歳まで女性は信用されないと言われていました。出産もあり、いついなくなるかわからないからと。金融機関で融資を受けるときも、お店を開くのにテナントを借りるときも、私一人では信用されず、一緒に起業した技術者に来てもらったりしましたね。
開店して3ヶ月は本当に閑古鳥でした。ご来店されたお客様に心配されていたほど(笑)。当時は、フレンチ、イタリアンでワインを飲むというのが主流でワインバーは敷居が高かった。今でこそ、ワインのお店で行列ができていますが。安価な居酒屋に変えてしまおうかなども悩んだこともありました。本当に試行錯誤で我慢我慢の日々でしたが4ヶ月が経った頃、転機が来たんです。もちろん、その時はまだ軌道には乗っていませんが、週に何度も足を運んでくれる常連さんができてきました。そして、1年後にはそんな常連さんの笑顔であふれていて、飲食の道一本でいきたいと思い始めました。
2店舗目を考え始めた7年ほど前に、一緒にやっていた技術者と話し合って、私は飲食一本でいくことを決め、技術から離れました。
たくさんの人に助けられた
銀座にあるお店を立ち上げるときにはすごく苦労しました。軌道に乗ったと思った Karin Karin ですが、銀座店のオープン準備の頃から私はたびたび抜けることが多くなり、お客様も徐々に減っていきました。銀座店も問題が多く、売り上げの面でも、立ち上げ当初は、経費は 2 店舗分かかるのに売り上げは 1 店舗分しかないという状態でした。それまでの保険も全部解約して、銀行からお金を借りてつなぎ止めた。いつ閉めてもおかしくない状況で、銀座店の立ち上げを手伝ってくれた飲食のプロの方にすら「閉店させるのも手ではないか」と言われたほどです。ですが、私はどうしても続けたかった。その意向を Karin Karin のスタッフはもちろん、常連さんたちは応援してくれました。
私はこちら(川崎)に常駐なので、住まいを銀座店の近くに移し、帰って来ては銀座店ご近所の飲食店と仲良くさせてもらい、輪はよりいっそう広がりました。DJやダンサーなど、色々な方面の方との出会いでおもしろいイベントも度々開催しています。人との出会いは本当に奥深く、今まで一緒に働いたスタッフの7割は紹介です。
飲食業はすぐに結果として出てくるので、私にはそれがいいんだと思います。それまでやっていた技術開発は、結果がわかるまですごく時間がかかりますが、飲食店は 3ヶ月で分かるんですよね。3 ヶ月努力するとすぐ結果がでますし、そのかわり3ヶ月怠るとすぐに悪くなります。そのせめぎあいです。――調子に乗ったり反省したりというのはあるのですが――、でも、お客様の反応としてすぐに、はっきりと返ってくるので、厳しいですが、反面、それが面白いなと思います。
上手くいったことと言えば、10年間お店を続けることができて、常連のお客様がついてくれたことでしょうか。これからもお客様とは近いお店でありたいですね。行例のできるお店もうらやましいな、いいな、とは思うのですが、あの状態が続くと常連さんがいなくなってしまいます。常連のお客様は基本的には空いている店でスタッフと話されるのが好きなのですが、忙しすぎるお店になるとそれができなくなるので、うちには不向きかなと思います。ワインの種類も多いし、ワインに合った料理もそうですし、引き続き、地域のなかで「ワインに強いお店」にしたいと思っています。渋谷や銀座など都心に行けばあるかもしれませんが、住んでいる街にもそういうお店があるといいですよね。