依田明子さん(特別養護老人ホーム 金井原苑)
依田さんは、特別養護老人ホーム金井原苑でより良い施設環境づくりの一環として、同施設の防災活動にも積極的に取り組んでいる。女性のための防災冊子の参考にすべく、震災時の対応においてどのようなところに着目し、いかなる工夫をされているかを伺った。
心のケアは地域の横のつながりから
2011年5月初め、金井原苑のスタッフが被災地・南三陸へレクリエーションを運んだ。「金井原苑としてできることは、楽しい時間を提供することしかないと思いました。」震災直後、“楽しい”“娯楽”などは“生きることの二の次”と非難されるかもしれないと、依田さんたちは不安でいっぱいだった。しかし、大勢の方々が温かく迎えてくれ「震災後初めて心の底から笑った!」と言ってくれた方もいたほど、楽しい時間を過ごせてもらえた。
心のケアのためには、子ども同士の交流や女性の語り場など、地域の横のつながりも重要であると依田さんは話す。とはいえ、「横のつながりを一から作るのは大変です。普段から横のつながりがしっかりしていたら、心のケアもできると思うんです。自分たちはただの刺激剤でしかないんです」。忘れがちな日頃からの横のつながりも日々の備えの一つである。
また、“生きることの二の次”とされがちな女性特有の生活必需品として、例えば化粧水などがある。依田さんのお話をふまえれば、女性にとって化粧水や化粧品は環境の変化によるストレスを減らすものであると考えられ、心のケアにつながるだろう。
施設の特徴を活かした防災活動
東日本大震災後に始めた防災対策として、金井原苑には「うまシール」というものがある。近くに乗馬クラブがあるため、親しみやすさをこめてうまの絵柄を用いた。これは、地震後に近づくと危険なエリア(窓付近、倒れてくる恐れのある家具など)を示す。「窓の多い施設のため、どこが安全な場所かを探すよりも、どこが危険かを探した方が早かったんです」。この取組みは、一目で危険かどうかわかるため、小さなお子さんがいる家庭や、幼稚園などでも活用することができるのではないだろうか。
柔軟な制度の必要性
災害時には想定外のことが起こるため、「柔軟な制度が必要です。カチっとした制度では、いくら訓練や備えがあっても災害時には機能しません」と依田さんは言う。例えば、金井原苑などの福祉施設は第二次避難所 に指定されるが、震災直後から避難してくる人もいるだろう。それゆえ、「震災時に柔軟に対応するためには、地域の人との連携が大切になってくる」。近年、女性の一人暮らし高齢者の割合が高くなっており、防災弱者対策や一人暮らしの高齢者を近隣の人が救出できるような柔軟な制度、地域同士の連携を強化していく必要がある。
取材を終えて
防災活動という言葉からまず想像されるのは、防火訓練や避難訓練である。しかし、依田さんのお話からは、実際は命が助かるための訓練だけではなく、楽しさや癒しを感じる心のケアも大切だということを知ることが出来た。また、地域の方とのつながりから柔軟な対応が生まれ、様々な方へのより良い防災対策ができると思う。
取材日 | 2012年8月24日 |
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取材者 | すくらむ21インターンシップ生(久保田・斎藤・永野・藤原・三澤) |