約20年間、育児に関するボランタリー活動に携わり、今年5月にNPOの仲間と共に『こども発達支援ルーム マオポポ』を立ち上げた三児の母である河村麻莉子さん。活動を始められたきっかけ、NPOの活動や他の仕事から学んだこと、マオポポ開所のいきさつ、実際の体験談や大切にしていることなどをお聞きしました。
マオポポを始めるきっかけと自主保育について
私は、一番上の子どもが3か月の時に川崎に引っ越しましたが、当時は子育てに孤独を感じていました。子どもが1歳を過ぎて育児サークルに入り、ある日サークルのメンバーと話していた時に、バリバリ仕事をしてきた彼女でさえも子育てに孤独感を抱えていると知り、「子育ての孤独感は個人の資質の問題ではない」と視界が広がりました。子どもが楽しむだけではなく、育児中で仕事をしていない親たちにも社会とダイレクトに繋がれる場が必要だと実感したことが、満の活動を始めたきっかけにもなりました。
私は子どもを幼稚園に通わせるのではなく、自主保育で育てました。幼稚園見学の際、長男に「どうだった?」と聞くと「人がたくさんいて怖いから行きたくないの」と返ってきたことがきっかけです。そんな時、遠くに住む友人から週3回公園で一緒に遊ぼうと誘われました。何度か集まるなかで、5人の子どもの面倒を見るのに大人3人はいらないから、交代で抜けることにしないかと提案されました。そこから互いに子どもを預け、預かり合う関係へと発展し、気が付けばメンバーが増えて自主保育グループになっていました。うちの子とだけ格闘していた時は孤独と不安で押しつぶされそうな毎日でしたが、仲間がうちの子と一緒に遊んだり叱ってくれたりすることで肩の力が抜け、子どもとの時間を楽しめるようになっていきました。「みんなの子どもをみんなで育てる」ことの大切さを実感しました。
マオポポは発達に遅れがある子どもたちを対象とした児童発達支援事業所です。NPOで子育て支援センターを運営していますが、お子さんの発達について悩みを抱えている親御さんが多いことから、発達支援まで含めたサポートを提供できるようになりたいと思ったことが開所のきっかけの1つです。
例えばお友だちのおもちゃを取ってしまう子がいたとすると、お母さんは子どもを叱り、自身の育て方を責めてしまいますが、子どもの「やってみたい」という気持ちを大切に、発達上大切な子ども同士のやり取りをあたたかく見守れる大人たちの輪があれば、子どもたちは経験を重ね、少しずつ折り合いをつけられるようになっていくのです。親が子どものことを一人で抱えて自分を責めないですめば、子どもも自己肯定感を下げずにすみます。特に育てにくい子の親御さんに、「親だからと抱え込まないで、一緒に育てていこうよ!」と声をかけたいです。
療育センターでの経験からマオポポを運営する
子育て支援センターに来所している親子さんの中には、お子さんの発達に心配があるからと療育センターにつながるケースが時々ありますが、その後来所がなくなることも多く、療育センターではどのような療育を行っているのか知りたい、という思いがつのりました。そこで数年間、NPOに関わりながらもパートで週2~3日療育センターで保育士として働かせていただいた時期があります。実際の療育の場で困難を抱える子どもたちと接しながら、時には葛藤しながらも療育を経験する中で、多くのことを学ばせていただきました。一言で療育と言っても、子どもたちの障害はさまざまで、何か一つのやり方でうまくいくわけではなく、現場では常に試行錯誤が必要だと知りました。また視覚的支援を取り入れて指示を伝えることは、療育の場では一般的ですが、発語の少ないお子さんに視覚的支援を取り入れることで、逆にその子の欲求や感情をアウトプットしていくことを支援していきたいとも思いました。療育センターに関わることで出会った人たちから教えてもらった療育の勉強会や研修に参加するうちに、奥深い療育の世界に魅了されてしまいました。
自分たちが活動している地域で、近隣の保育園・幼稚園や子育て支援施設等とも連携を取りながら、子どもたちの成長をたくさんの大人で一緒に見守れるような発達支援の事業所をつくりたいと考え、2020年5月に『こども発達支援ルーム マオポポ』を開所しました。
マオポポでは、訓練というニュアンスではなく、子どもたちの「好き」「やってみたい」という気持ちを引き出し一緒に楽しみながら、苦手な部分も少しずつ底上げしていきます。何か特殊なことをやる「療育のプロ」をめざすのではなく、「丁寧な保育」を通して、いろいろな特性を持った子どもたち一人ひとりの得意なこと・苦手なことに寄り添いながら支援しています。
子どもたち一人ひとりの発達を予測しながら支援計画を立て、子どもの遊びに入れてもらい遊びを広げることでコミュニケーション力を高めていくというJASPERプログラムや、感覚統合プログラムを取り入れた療育を行っています。
より良い支援の模索
マオポポでは個性豊かな子どもたちが一緒に過ごしています。例えばAちゃんはいつもミルクのスプーンや鉛筆など、なぜか棒状のものを手に握って登園してきます。時々10回くらいグルグル回ったりするのですが、眼振がなく、目が回らないようでした。スタッフも不思議に思いつつ、棒を預からせてもらったり、一緒にグルグル回ってみたり。先月、感覚統合のアドバイザーの方を囲んでのスタッフ研修の際にAちゃんの棒について伺ったところ、「もしかしたら…その子は視覚的な問題を抱えていて持っている棒の先を目印にしている可能性があるかもしれないよ」との示唆をいただきました。周りから見れば意味もなくただ不可思議に見える子どもの行動も、本人にとっては大切な意味があるかもしれない、大人の思い込みを一旦捨てて、一人ひとりの子どもの目線に立つ必要があるのだと、改めて感じました。
おわりに
NPO法人子育て支えあいネットワーク満は『“うちの子”だけじゃない、みんなの子どもをみんなで育てていける地域』をめざして、子育て期を互いに支えあえるコミュニティづくりをしています。『こども発達支援ルーム マオポポ』を開所したことから、児童発達支援以外にも、マオポポを拠点にした一時預かりや「すくすく体操教室」、造形ワークショップ「ルールリマ」、「まなびの場いっぽいっぽ(学習支援)」などの活動もはじまってきています。
子育てに疲れた時にちょっと肩の荷を下ろせる場、発達に遅れがあってもなくても、いつまでもつながっていられる場所として、この地域に根を張っていきたいと思っています。
マオポポに来て、私たちとお話しませんか?お子さんの個性や特性に心を寄せながら、一緒に子育てしていきましょう。
編集後記
今回の河村さんのお話をお聞きして、マオポポさんの一人一人に適したサポートを行うやり方は、子どもたちとの距離も近く、とても真摯にそれぞれの子どもと向き合われていると感じました。子どもたちだけではなく、育児に関して同じ悩みを抱えている親同士が交流する場所があるということはとても大切なことであり、必要とされているのだと改めて気づきました。
この度は貴重なお話をお聞かせ下さりありがとうございました。
インタビュー者:令和二年度インターン生
月村・山崎・米山