渡辺ひろみさん(特定非営利活動法人 秋桜舎 コスモスの家理事長)
コスモスの家は、現在福祉サービス提供の分野でデイサービスや夕食宅配、保育園の運営など9つの事業を展開しているNPO法人。働く女性として、ここまで団体を発展させるためにしてきた工夫や、苦労したことを、理事長の渡辺ひろみさんにうかがった。
女性がイキイキと働ける職場を目指して
コスモスの家設立のきっかけはなんですか?
平成元年頃から高齢化が進み、年配の方から『孤独が一番怖い』、『お喋りや食事を一緒に出来る場所が欲しい』という声を聞くことが多くなりました。その時に、『なんとかしなければならない』と奮起し、子育てが終わった主婦たちが集まり、団地の和室でボランティアのミニデイサービス『コスモスの会』を立ち上げました。その後、平成12年の介護保険制度の導入で、法人化しないと介護保険事業や地域福祉活動が出来なくなったので、NPO法人 秋桜舎『コスモスの家』となりました。
現在9つもの事業を展開していらっしゃいますが、なぜこれほどまでに発展させることが出来たのですか?
1人の人が『こんな事をしてほしい』と言ったものがあれば、それは他の多くの人も願っていることです。ですので、とにかく人々のニーズに応えて、それを事業にしてきたことが大きいと思います。
コスモスの家を、どのような場所にしたいと思っていらしたのですか?
また、コスモスの家の魅力はどのようなところでしょうか。
ほとんどの女性は結婚する際に子育てや家事のために仕事を辞めてしまいます。そういった女性たちが、子育てが終わり落ち着いた時期に、もう一度イキイキと働ける場所にしたいと思っていました。
コスモスの家の職員は、タイムカードは使用しません。すべて自己申告制で、自分が申告する内容に責任を持たなければなりません。また、職員の間には、資格の有無や常勤・非常勤、責任者手当等を除けば、時給に差はありません。こういったやり方に不満が出ることもあります。しかし、こうすることで皆それぞれが、誇り、責任、やりがいを持てる職場になっていて、コスモスの家の魅力だと思います。
苦労をはねのける、努力と誇り
NPO法人を運営していくうえで、なにか苦労されたことはありましたか?
資金面では本当に苦労しました。自主運営の団体ですし、市からの助成が下りず、私たち自身も出費しながら運営していました。そこで、コンサートやバザー、旅行を兼ねた『動くシンポジウム(研究発表会、討論会)』を開いて、いろいろな工夫をこらし資金を集めました。そうした中で、市の委託事業や、空店舗活用助成事業などの補助金や助成金がいただけるように行政に働きかけたなかで、財政が安定してきました。
自分の住む地域で活動していくにあたって、苦労されたことはありましたか?
一般企業では、管理職をしている女性は少ないですよね。そういった風潮もあり、『女性に理事長は務まらない』という声も多くありました。しかし、自分に誇りを持ち、『これは自分の仕事だ!』と奮起して、頑張ってきました。
NPO法人の力は、日本ではまだまだ弱いです。設立当初は行政の中でも理解者が少なく、地域でもなかなか浸透しませんでした。民生委員さんや自治会、町内会、その他団体等に挨拶に行ったことがあり、その際に、私たちの理念に理解していただけず、『福祉の時流の波に乗った良いとこ取りだ』と反発され、辛かった時期がありました。
コスモスの家を立ち上げる前の、お仕事をなさっていた時期の家事や育児の分担はどうなっていましたか?
私と夫のどちらが子どもを保育園に連れて行くかで、毎朝戦争のようでした。夫の仕事が長期間家を空けることもある仕事でしたし、責任のある仕事はどちらかと言えば男性に任せられがちです。ですので、子どもの帰りのお迎えは私が行っていました。家事に関しては、共働きしていると本当に大変なので、親や近所の方に助けていただいて、なんとかやってこられた部分も大きいです。
逆境を活躍する場にしていく
これからNPOで活動していこうとしている若者が、理解しておくべきことはどんなことですか?
私たちがコスモスの家を立ち上げたころの主婦の立場と、今の若者の、就職難などの苦境に置かれた立場は、似ていると思います。行政の力に依存せず、自分たちの力で主体的に動き、進んでいかなければ、その先の発展は難しい。コスモスの家の理事たちは70歳代と80歳代が主で、世代交代が必要だと考えています。私から見て孫のような、苦境におかれた若者にこそ、これからのNPO法人の行き先を託していきたいと思っています。
もともとNPO法人は、ボランティア精神をもったもので、地域のボランティアへの参加、寄付で運営されているものです。NPO法人は給料が少ないとかといったことを覚悟して入ってこい、などというつもりは、全くありません。大事なのは『理念と経営の両立』だと思います。きちんとした賃金体系を作っていくことが、仕事にやりがいを持つためや、団体を発展させていくために重要だと思います。
取材を終えて
女性の社会進出への意識がますます高まっている中、自分の仕事への誇りを常に持ち続けていることが、女性が働き続けるために重要だと感じた。また、働きながらの家事や育児に関しては、一人で抱え込まず、助け合うことも大切であると知った。
インタビュー:高士優太
取材日:2012年8月23日(木)