このページでは、親子で一緒にたのしめる絵本を紹介しています。
日本には、昔から山奥や海辺に小さな村がたくさんありました。山奥で暮らす人々は町や海にあこがれ、海の人々は畑の作物を求めていたのです。
そして、その思いはいつまでたっても叶えられず、山に生まれれば山で、海の村で生まれれば海の村で暮らすのがほとんどの人々の暮らしだったのです。
ある日、突然山で元気のいいたけのこが生まれました。あっという間にたけのこはぐんぐん伸びて、天を突くような高さまで伸びていきます。 たけのこにつかまったまま天高くまで登ってしまった“たろ”を助けようと、村の人たちがたけのこを切ると、倒れたたけのこは遠く海まで届きます。 山の村の人々は倒れたたけのこを伝いながら海の幸を求め、豊かな暮らしを手に入れていきます。いくつもの山を越えて伸びるたけのこの生命力がいきいきと描かれ、大人も子どもも温かい絵の力とテンポの良い文章にぐんぐんひきつけられます。
村人がいっせいにたけのこにそって走り出す場面は、勢いとスピード感が紙面から伝わってきます。『たけやぶを すぎ、くぬぎばやしを すぎ、まつばやしを すぎ、ヒノキ林を すぎ』の繰り返しもまた楽しく、子どもたちと掛け合いしながら楽しめそうです。絵本を縦に横にしながら楽しめる嬉しい仕掛けと白黒とカラーのページが交互に出てくるのも不思議な魅力を醸し出しています。
このたけのこは、道であったり、橋であったり、人であったり、線路であったり、飛行機であったり、つまり人と人、村と村、町と町をつなぐ架け橋であるのです。
五月から七月の頃、たけのこを見ながら夢を膨らませ、子どもたちに読ませておきたいし、大人になっても、ほっこり笑いが生まれる絵本です。
※紹介文は、ブックインフォメーション2015年7月号より抜粋しています。