『クジラのおなかに入ったら』
発行日:2021年12月発行
著者:松田純佳
出版社:ナツメ社
発行日:2021年12月発行
著者:松田純佳
出版社:ナツメ社
クジラのおなかに入ったら、何が分かるのでしょうか?著者は、浜辺に打ちあがってしまったクジラやイルカを解剖することで、生前のクジラやイルカが何を食べ、どのように生活していたか、特徴を明らかにする研究をしています。陸に打ちあがったクジラやイルカを対象にした調査をストランディング調査といい、ストランディング(陸に打ちあがった状態のこと)の連絡を受けると、日本全国を北へ南へ、吹雪の日も夏の暑い日も現場に向かいます。地球上で最大の動物であるシロナガスクジラが史上初めて日本の浜辺に打ちあがった際には、10メートルもあるクジラを解体しながら、文字通り“おなかに入って”、胃の内容物を採取します。
本書にはこの分野で働く多くの女性研究者が登場しますが、例えば海洋科学を含む理学分野における女子学生の割合は非常に少なく、2020年度の調査(令和3年度版男女共同参画白書)では、学部で27.8%、大学院(博士課程)では20.2%と言われています。筆者と先輩研究者との出会いには、まだまだ女性の少ない研究者の世界で同じ道を目指す次の世代へのあたたかいまなざしが感じられます。結婚・出産のタイミング、キャリアの中断、体力の差など著者自身が感じる女性研究者としての困難も綴られていますが、同時に悩める後進を力づける存在になりたいという筆者の想いが本書の全体から伝わります。動物好きの少女がひとりの研究者になるまでの10年に渡る研究の日々がいきいきと描かれています。