『対岸の彼女』
発行日:2007年10月
著者:角田光代
出版社:文春文庫
発行日:2007年10月
著者:角田光代
出版社:文春文庫
35歳の既婚で子持ちの小夜子と独身で子なしの葵は、労働者・雇用主という立場で出会う。共通点は大学の同級生だったことだけ。互いに性格や立場の違いを知りながらも、急速に距離を縮めていく。が、その「違い」によって二人に障壁が生まれる。
既婚と未婚、子の有無、離婚経験の有無、職の有無。生き方が多様化するなかで、それらは違いでしかないのに、どこかで比較し優劣をつけたがる人がいる。そして自分の現在の立ち位置に不安になったとき、自分が選択してきたはずなのに、選択しなかった「対岸の彼女」の生き方と比べながら、なんとか自分を肯定して前に進もうとするのだ。
自分がどこに向かっているのか、何のために年を重ねていくのか、折に触れて自問自答しながら歩んでいる二人。亀裂が生じた後の小夜子の行動によってまた変化していきそうな二人を想像させるラストの描写も面白い。
「私たちが年齢を重ねるのは、また出会うため。出会うことを選ぶため。選んだ場所に自分の足で歩いていくため」— 小夜子の現在と葵の過去の二つの時間軸を交差させながら進行する物語の描かれ方が、文中のこの言葉を心に深く刻んでくれる一冊。